コラム:「ポスト・プーチン」のロシアはどうなるか
John Lloyd
[24日 ロイター] - これはいま言うべきタイミングではないだろうが、トランプ大統領にも一理ある。新鮮さに欠け、実現は難しい言葉だが、先月ヘルシンキで行われた米ロ首脳会談の前にトランプ氏は、「ロシアとうまくやって行くことは、よいことだ」と述べている。
彼は間違っていない。
ロシアのような国が、西側諸国に抱く敵意を軽視すべきではない。その攻撃的な姿勢をまねるのではなく、ウクライナで行われた言語道断の侵攻や、バルト海沿岸の北大西洋条約機構(NATO)加盟国への威圧に対し、民主主義諸国は慎重かつ毅然とした態度を維持すべきだ。
だがその一方で、さまざまな意見を持つロシア国民との文化的交流やオープンな議論を活性化し、教育面での交流を深め、そしてロシア側のコメンテーターや有識者、政治家に対して発言の場を与えることに、もっと積極的に努力するべきだ。
宿命的な「絶望」に終ったヘルシンキでの米ロ首脳会談がもたらした多くの不都合な点の1つは、この会談を機に、プーチン大統領が米国側の代表者よりも優れている、つまり、有能で理路整然としており、主導権を握っているとの印象を与えたことだ。
ロシアのメディアは明らかに上機嫌でこの点を強調している。再選されて大統領として4期目を迎え、これから6年間、揺るぎない権力を握るロシアの指導者は、自らのプログラムと政権、国家を手中に収めているというメッセージを、世界中に発してしまったのだ。
とはいえ、そうならない可能性もある。
プーチン大統領の国内支持率は、ここ数カ月で急落している。8月12日にパブリック・オピニオン・ファンデーションが行った世論調査によれば、「今週大統領選が行われたらプーチン氏に投票する」という回答が、6月の62%から46%に下落した。
独立系の調査会社レバダ・センターが実施した別の世論調査では、「この国は間違った方向に進んでいる」と答えた割合が、5月の27%から7月には40%に上昇した。「物事がうまく行っている」という考える人は、半分以下の48%となった。
民主主義国の指導者が受ける水準からすれば、これらの数値はそれほどひどいものではないだろう。だがプーチン大統領の支持率が80%を軽く超えていた時期に比べれば、これは急激な低下だ。
人気低下の原因は主に、プーチン大統領が2005年に公約した内容とは裏腹に、政府が女性の年金支給年齢を55歳から63歳に、そして男性の場合は60歳から65歳へ引き上げたことにある。
男性の平均寿命が66歳のロシアでは、この引き上げは幅広い反感を生んだ。指導者としてのプーチン氏に、これまで大体忠実だった中高年層では、それが特に顕著だ。
この層が、たとえやや消極的であっても、反発する事態に陥れば、さすがのプーチン大統領も、クリミア半島併合や東ウクライナの分離独立主義者支援といった、国内では称賛される政策によってさえ、大衆的な幻滅の法則を免れることはできないというシグナルになる。
ロシアのように統制された民主主義の下であっても、忠実な支持者が離反する余地はある。いくつかの世論調査では、年金制度の変更が発表されて以降、プーチン氏個人の支持率が69%に低下した。
今のところプーチン大統領の権力に揺らぎはないが、こうしたトレンドからみる限り、彼はもはや無敵の存在ではなく、今回の任期では苦労が多くなるかもしれない。
もし支持率が大統領を裏切り、政権内部からも反旗を翻す動きが出てくることにより、プーチン大統領が辞任を強いられる羽目になれば、西側諸国らは、多大な変化を期待するだろう。
多くの論評がプーチン氏をロシア政治形態の柱として扱っているせいで、時として、彼個人が彼の指導する国家そのものと同一視されていることがあるからだ。彼こそがロシアだ、というように。
「ポスト・プーチン」の変化はあるかもしれない。しかしそれが非常に大きなものになる可能性は低い。
まず、共闘する野党勢力が存在せず、「影の内閣」などもない。不人気のリベラル政党やグループにも、脆弱な野党を構成している共産党やその他の政党にも、そして最もカリスマ性のある大胆な反体制派で、上層部の政治腐敗を訴えている著名人アレクセイ・ナワルニー氏でさえも、そこまでの用意はない。
また、ここ数年、幅広いロシア人のあいだで西側諸国の人気は低い。こうした感情をゼロからプーチン氏が生み出したわけではない。西側がNATOの領域をロシアの国境近くまで拡大しており、ロシア政府が同性愛嫌悪を政治的手段として利用する一方で、西側が性的な寛容を推進していることで、大統領は、西側はロシア的な価値観を否定しているという考えを吹聴したのだ。
ロシアの過激なナショナリズム勢力は、若者を中心に多くの支持を集めているが、平均的なロシア人でさえ、自分の国は欧州の一部ではなく、独自の文明であると考えている。
プーチン大統領は、ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的な惨事であるとの確信を抱いて、権力の座に就いた。これは直近の選挙においても彼が繰り返していた信念だ。
彼はロシアを世界的な大国として復活させようと努力してきた。経済や人口面での衰退を考えれば、これは大変な難題だ。彼がこれほど難しい課題に成功を収めてきたということは、根本的に異なるアプローチを取る余地がほとんど無かったことを意味している。
将来の後継者は、西側に対する敵意を抑制しようと試みるかもしれないが、その動きは緩慢かつ限定的で、世界におけるロシア独自の文化と地位という感覚を失わないよう、慎重なものになるだろう。
2024年の任期終了前にプーチン大統領の足場はぐらつくかもしれないが、国内そして海外の一部から喝采を浴びつつ任期を全うする可能性もある。
いずれの場合においても、その後継者が、少なくとも見た目だけでもロシアを再び偉大にしようとするプーチン氏の成功を維持しようとするならば、西側に対しておおむね敵対的な姿勢をとる「プーチン主義」が主流になるだろう。
世界の民主主義国は、ロシアのように攻撃的で、潜在的な不安定要因となり得る国家と正常な関係を保つことはできない。
リスクに直面するNATO加盟国を保護するための説得力が必要だし、効果があると多くが考える制裁体制を維持し、民主的でリベラルな価値観に対する自らのコミットメントを強調しなければならない。
その一方で、元駐モスクワ米国大使のマイケル・マクフォール氏が記しているように、米国など西側諸国の首脳は、「ロシアとの際限のない対立は望んでいないと、はっきり表明すべき」なのだ。
プーチン氏抜きのロシアであっても、その見た目や行動がプーチン氏がいる場合とほとんど同じとなる可能性が高いだけに、長期戦は避けられない。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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