このところのアルゼンチンペソ円相場を振り返りつつ、アルゼンチンの政策金利が45%まで引き上げられた経緯と、今年2018年のアルゼンチンペソ円レート見通しを解説します。
目次
2018年8月までのアルゼンチンペソ円振り返り
2018年8月中旬のアルゼンチンペソ円レートは、通称「トルコリラショック」の波及で大幅に値を下げました。
トルコリラショックと新興国通貨
アルゼンチンペソと同様とも言える高金利・高リスク新興国通貨であり、8月9日まで下落が続いて最安値を更新し続けていたトルコリラが、対米関係の悪化を背景に8月10日に大幅急落し、トルコリラ円レートは節目と思われていた20円をあっさりと下回りました。
こちらはトルコリラ円レートの10日までの日足チャートです。
そのまま週が明けた13日月曜は一気に15円台まで下げ、それを一旦の底打ちとして今週はおおむね回復基調にあるものの、トルコのエルドアン政権から有効な対策は当面打ち出されておらず、依然下値の拡大するリスクをはらんだ状況です。
このトルコリラショックをうけ、金融市場は混乱、世界的にリスクオフの動きが出るなか、安全資産といわれる円が買われる一方でリスクオン資産と目される新興国通貨は軒並み売られ、各国当局は通貨防衛(自国通貨の暴落を防ぐための対策)に追われています。
アルゼンチン金利45%までのおさらい
通貨防衛に追われる国々のなかで、今週とくに市場の注目を集めたのが、アルゼンチンです。政策金利を45%にまで引き上げたためです。
アルゼンチンが今回45%にまで政策金利を引き上げるまでの流れを、ざっと追ってみましょう。
アルゼンチンペソ安の原因は米の利上げ
アルゼンチンではもともとすさまじい勢いのインフレが進んでいました。その原因のうち大きいものとしては通貨安、つまりアルゼンチン通貨であるペソの急落があります。
アルゼンチン通貨安の原因の一つとして、米国の政策金利(FF金利)引き上げ観測があります。
基軸通貨である米ドルの金利が引き上げられると、高金利ながら高リスクな新興国通貨は資産としての旨味が少なくなり、売られる傾向にあります。
そして本年4月、米中銀(FRB)が金融緩和の引き締め(利上げ)に向かうという観測が出ました。それ以降、新興国通貨は軒並み売られ、とくに経常赤字の膨らんでいるアルゼンチンの通貨ペソは売りが続き、史上最安値を更新し続けていました。
下図は、アルゼンチンペソ円の月足チャートです。今月18年8月に至るまで、下落基調が続いています。
アルゼンチンペソ安にトルコリラショックが重なる
その対策として、アルゼンチン政府がIMF(国際通貨基金)の支援を受け入れ、そのかわりに痛みを伴う改革を進める方針を取ったほか、アルゼンチン中銀はインフレを抑え込む意図で、政策金利を40%という極めて高いレンジまで引き上げました。なお、アルゼンチンの利上げは本年に入ってこれで3回目でした。
利上げを行った18年7月、一時的にペソは上昇し、対円レートで以前の3円台後半から4円を超えるレンジまで上昇したものの、根本的な通貨安・高率インフレの対策にはなっておらず、そこに今回のトルコリラショックに見舞われました。
7月からの日足チャート(下図)で見ると、7月下旬の利上げで4円台まで上昇しつつも、トルコリラショックが顕在化した8月10日から週明け13日にかけ、アルゼンチンペソ円レートはさらに下値を拡げ、史上最安値となる3.6円台まで急落しています。
金利45%、当面利下げ可能性も否定で対抗
そこでアルゼンチン中銀は、13日月曜、政策金利をさらに5%引き上げ、年45%とすると発表しました。これで、今年のアルゼンチンの利上げは4度目となります。
中銀の緊急会合後の声明では、利上げの理由を「国外情勢への対応、ならびに、物価上昇リスクへの対応のため」とし、また「少なくとも10月まで、利下げは行わない」とされていました。アルゼンチンペソ売りを抑え込み、買いを支えるためです。
アルゼンチンペソ円の3時間足チャート(下図)を見ると、これにより、13日中には3.6円台の下値圏にあったアルゼンチンペソが、その後3.8円手前まで急速に値を戻しています。とはいっても勢いは続かず、16日現在は3.7円手前でぐずついている状況です。
スポンサーリンク
アルゼンチンペソ当面の見通し
45%もの高金利にあってなお史上最安値圏をさまようアルゼンチンペソの状況を見ると、今回のトルコリラショックが、新興国通貨(あるいはリスクオン資産)の見通しをどれだけ不透明なものとしたかが伺い知れます。
アルゼンチンペソの下げは、今後もとどまるところを知らないのでしょうか?この新興国通貨安の勢いは、いつ緩やかになり、反発するのでしょうか。
一部ではこれで底打ちの見通しも
市場センチメントは大きく後退し、アルゼンチンペソを含む新興国通貨の全面安商状が収まる兆しが見えない状況とはいえ、一部では「これ以上の新興国通貨安には至らないのでは」との、いくぶん楽観的な見通しも出ています。
この比較的楽観的な見通しの根拠として、欧州復興開発銀行が行っていた、トルコリラ急落に備えた「ストレステスト」が挙げられています。
この内部的なテストでは、トルコリラショックが生じると「損失は出るが、(金融市場は)耐えられる」としていたとされ、これによって、今回じっさいに生じたトルコリラショックが傷口を広げることなく回復基調に転じる可能性もある、と論じられています。
また、トルコリラショックの直接的なきっかけとなったトルコの米国人牧師拘束問題についても、米からは一週間以内のトルコ側からの譲歩が求められており、緊張が高まっているものの、エルドアン大統領が米国に交渉(米で拘束されている勢力を釈放することを交換条件とし、トルコも米国人牧師を解放する、など)を持ちかける可能性が一部で持ち上がっており、事態が沈静化に向かうという見方もあります。
2018年8月下旬にかけてのアルゼンチンペソ見通し
当のトルコリラの日別チャート(下図)を見ると、8月13日までに凄まじい下げが見られたものの、本日16日までは、少なくとも本年にはない鋭い勢いで、値を戻しているのがわかります。
今回のトルコリラショックにおけるトルコリラ安値が底となれば、アルゼンチンペソも買い支え期待の政策金利引き上げが奏功し、少なくとも下げの勢いは鈍ると見られます。
2018年末のアルゼンチンペソ円レート見通し
こちらは、過去3年ほどのアルゼンチンペソ円レートの週足チャートです。
これを見るとわかるように、少なくともこの数年は、アルゼンチンペソ円レートの下げはほぼ恒常的なものになってしまっています。
原因と考えられる点としては、アルゼンチンの慢性的なインフレ体質に加え、元来高い水準の対外債務を持っていることも挙げられます。
こうした固有の問題の短期的な解決は容易ではなく、トルコリラショックの影響の和らぎや、アルゼンチン中銀による政策金利引き上げがあっても、この中長期的なトレンドは覆らないと考えられます。したがって、2018年末に向けては下値が拡大するシナリオが見通しとして有力とみられます。
2018年末のアルゼンチンペソ円のレートは、2.20円から4.20円を予想します。
コメントを残す