コラム:ソフトバンク、社員に出資促す奇策にはリスクも
Quentin Webb
[香港 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、ソフトバンクグループ<9984.T>は社員インセンティブ制度を利用して巨大ベンチャーファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」に50億ドルを追加出資し、ファンドの規模を目標の1000億ドルに引き上げようとしている。
社員に身銭を切らせる形になるこの取り組みは、うまくいけばビジョン・ファンドの投資事業をより洗練させることができる。だが賭けが裏目に出ると、大いなる幻滅を味わう恐れもある。
孫正義会長兼社長は大胆な策を打ち出す人物で、今回の戦略もいかにもソフトバンク的だ。孫氏とその側近はこれまでもアリババ株に転換可能な証券を発行するなど、保有資源の価値を最大化するための型にはまらない金融テクニックを次々と生み出してきた。FT紙によると、今度は社員に出資金の大半を融資し、邦銀が支援するという。
プライベートエクイティ(PE)会社のパートナーが、投資家から集めた資金に加えて個人資金を自ら運用するファンドにつぎ込むのは珍しいことではない。こうした出資は外部の投資家に対して運命共同体であることを示す材料になる。
しかしビジョン・ファンドはあまりにも規模が大きいため、社員の出資金額が業界の基準に比べてけた外れに多い。例えばKKRは昨年、米州地域の買収ファンドの募集を139億ドルで締め切ったが、関係者が専門紙に明らかにしたところによると、パートナーの出資はこのうち4億ドルで、ファンド全体に占める比率は2.9%にすぎない。一方ソフトバンクはこの比率が5%と異常に高い。
さらに追加出資がソフトバンク内でどの程度幅広く負担されるのかもはっきりしない。もしもビジョン・ファンドを運用するソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズの社員160人強だけで引き受けるならば、1人当たりは約3100万ドルにも達する。
こうした仕組みを導入すればビジョン・ファンドの運用チームはこれまで以上に有望で、利益が見込める投資案件の掘り出しに集中するに違いない。ビジョン・ファンドは投資ペースが急激で、多様なポートフォリオを抱えているだけに、社員が出資することで外部投資家は安心するだろう。
しかしもちろん、投資案件がくずだったと判明して運用に失敗したり、ハイテク株のブームが崩壊したりすれば、資金を出した社員は持ち分より多い借金を背負うはめになり、大きな打撃を受けるだろう。
●背景となるニュース
*ソフトバンクグループは社員インセンティブ制度を活用し、サウジアラビアの政府系ファンドなどと設立した巨大ベンチャーファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」に50億ドルを追加出資する計画だ。20日の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が複数の関係筋の話として報じた。ソフトバンクはコメントを避けた。
*FTによると、ソフトバンクはビジョン・ファンドの規模を目標の1000億ドルに到達させるため、この制度活用を計画し、社員は少額の拠出を求められるとともに、ソフトバンクが残りを融資する方針。融資アレンジのために複数の邦銀と接触もしているという。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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