コラム:買収承認得たAT&T、「勝者の呪い」の恐れも
Jennifer Saba and Gina Chon
[ニューヨーク/ワシントン 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米通信大手AT&Tが米タイム・ワーナーを850億ドルで買収する計画を米地裁が承認し、買収阻止のため提訴していた司法省は完敗を喫した。ただAT&Tのランドール・スティーブンソン最高経営責任者(CEO)は「勝者の呪い」に襲われる可能性もある。
地裁は買収に条件を付けなかったばかりか、判決の執行延期を求めないよう政府機関に忠告。買収完了は来週に迫っており、仮に延期を求めれば「明らかに不当」だとした。
規制当局側は、買収すればタイム・ワーナーが持つ「ゲーム・オブ・スローンズ(GoT)」などのコンテンツを欲しがっている競合他社に対してAT&Tが有利になるため、消費者に損害が及ぶと主張していた。これに対してAT&Tは、買収によりフェイスブックやグーグルの親会社アルファベットなど他の巨大企業とデジタル広告の分野で競争しやすくなると訴えていた。
AT&Tとタイム・ワーナーの事業が重複していないことを考えれば、司法省は従来の枠を踏み出してまで買収を阻止しようとしていたことになる。そして大半の企業は、司法省に反対されれば買収を断念するか譲歩に応じてきたため、実際の裁判に持ち込まれたケースはまれだ。
スティーブンソンCEO自身、7年前には同業TモバイルUSの買収を試みたが政府に提訴されて断念しており、2度目の失敗は許されなかっただろう。とはいえCEOはこれから、タイム・ワーナー傘下の放送局HBOやCNN、映画スタジオのワーナー・ブラザーズといった資産から何かを生み出さなければならない。
地裁の判決を受け、AT&T株は12日の時間外取引で2%下落した。これは同社の行方が順風満帆とは限らないことを告げているのかもしれない。同社はこれまでコンテンツを作った経験を持たず、創造性あふれる人材の管理や、GoTに続く超人気作を見つけ出すといった課題に挑むのは初めてだ。
ネットフリックスやアマゾン・ドット・コム、アップルはテレビショーや映画に何十億ドルも注ぎ込んでいる。つまりAT&Tにとって、買収で支払う巨額のプレミアムを正当化できるほどのコスト削減は難しい。同社は裁判に勝ったのを悔やむ羽目になるかもしれない。
●背景となるニュース
・米連邦地裁は12日、AT&Tのタイム・ワーナー買収を承認した。ロイターによると条件は付けていない上、米政府に執行延期を求めないよう忠告した。
・AT&Tは2016年10月22日にタイム・ワーナーの買収で合意し、司法省は17年11月20日、買収阻止を求めて提訴していた。
・司法省の担当者は、判決に失望しており、次の措置を検討するとの声明を出した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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