コラム:不都合なドル高、トランプ政権が陥る「ジレンマ」
Pete Sweeney
[ニューヨーク 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米ドルの最近の強さは、非常に間の悪いタイミングで起きた。これが持続するなら、米国の不動産は再び過熱し、新興市場から資金が流出、貿易赤字を減らそうとするトランプ大統領の努力を困難にするだろう。
さらに悪いことには、米国政府への疑念が高まっているにもかかわらず、ドルの支配を一段と強めることになる。
トランプ氏が2017年初めに大統領に就任したとき、ドルはずっと下落基調で推移していた。ユーロの反発と日本の金融緩和策、そして米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースが予想よりも控えめだったことが影響していた。
だが、それは誰も煩わせたりはしなかったようだ。株式市場は上昇し、企業収益は底堅く、投資はよりリスクの高い通貨や新興国に流入した。また、韓国、中国には政治的な隠れみのを提供した。両国は、対米貿易黒字を生むために為替レートを使っていないということを、保護貿易主義的な米政府に納得させたがっていた。
だが、そうした状況が永遠に続くはずもない。
FRBは利上げを続け、ホワイトハウスは一貫性のない政策や、イラン核合意からの離脱などの外交的対立を引き起こして市場を混乱させ続けた。さらには、欧州で3番目に大きな経済国であるイタリアで、ユーロ加盟の是非を巡って政治危機が起きている。
これを受け、米国債利回りは29日低下したが、ドルはすでに上昇傾向にあった。主要通貨バスケットに対するドル指数は、過去30営業日で約6%上昇している。
新興市場にとっては玉石混交である。輸出国には良いニュースだが、安いドルを大量に借り入れて設備投資につぎ込んだ企業にとっては悪いニュースとなる。
国際決済銀行(BIS)のデータによると、ドル建てクロスボーダー債権は2017年末時点で14.2兆ドル(約1540兆円)に増加。これは、世界金融危機が起きる以前の2008年のピークをやや上回る水準だ。ドル反発を受け自国通貨が急落すると(2015年から16年にかけて人民元がそうだったように)、借り手はまずドル建て債務を急ぎ支払うことになり、資金流出の不安定化を招く。特に中国から流出した資金は、不動産のような非流動資産に流れ込み、バブルを生む。
より大きなリスクは、強い通貨により、トランプ大統領が保護貿易主義的スタンスをいっそう強めることだ。そうなれば結局、貿易赤字は悪化しかねず、大統領をいら立たせることになる。問題が発生した場合、ドルは投資家にとって頼れる安全な避難先であることに変わりはないということを、29日の米国債利回り低下は改めて思い起こさせた。
ホワイトハウスが、ますます不安定要因となるなら、さらに厄介なジレンマに直面することになるだろう。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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