ブログ:クリスマスを路上で過ごすロンドンのホームレス

ブログ:クリスマスを路上で過ごすロンドンのホームレス
12月21日、慈善団体「シェルター」の推計では、英国全土で30万人がホームレスになっており、クリスマスに住む家がない子どもは12万8000人に上るという。写真は、ロンドンのハイドパーク駅近くの地下道で寝るホームレスの男性。19日撮影(2017年 ロイター/Mary Turner)
[ロンドン 21日 ロイター] - ロンドンのピカデリー劇場のチケットは最高110ポンド(約1万6000円)する。劇場に掲げられたミュージカル「アニー」の広告バナーには、劇中歌のタイトルでもある「イッツ・ア・ハード・ノック・ライフ(厳しい人生)」と書かれている。そして、劇場の外の路上では、ブライアンさんとケビンさんが小さなテントを張って眠っている。
彼らは、公式発表で首都に1000人近くいる屋外で寝る人たちの一員だ。英国全体では、4000人以上が毎晩屋外で眠っている。
ブライアンさん(51)は、個人的な問題を抱えて酒と薬物に手を出し、ホームレスになった。昨年は肺炎で死にかけたという。
「今の生活は以前よりも悪い。でもいろんな原因があると思う」と、ブライアンさんは言う。「今の世の中は、物価が上がり続けて、片やサービスや福祉、人間らしさは下がっていく」
この7年で問題が悪化したという点についてはおおむね英国内で合意があり、保守党政権による緊縮財政で、住宅向け福祉政策が変更されたことも一因との批判も出ている。
英議会の決算委員会(PAC)は最近出した報告書で、英国全土でホームレス問題が「国家的危機」になっていると指摘した。
「最近の公式発表の数字は、英国のホームレス問題の恥ずべき現状と、多くの人々や家庭が苦しむ悲劇に対する政府の対応の失敗を明白にした」と、PACのメグ・ヒリヤー議長は述べた。
慈善団体「シェルター」の推計では、英国全土で30万人がホームレスになっており、昨年から1万3000人増加した。英国では200人に1人がホームレスで、クリスマスに住む家がない子どもは12万8000人に上るという。
公的な数字をみると、2016年秋のある夜に屋外で寝ていた人は4134人で、1800人未満だった2010年比で134%増加した。
「自分の家さえあればほかに欲しいものはない」と、ウォータールー駅近くの地下道で眠るジミーさん(51)は言う。
「クリスマスになると、街の外からやってくる人が増える。おカネをもっともらえるからだ。われわれのように、いつもいる人間は大変だ」と、スコットランドのグラスゴー出身のジミーはさんは話した。
この問題には、人道面と財政面のコストがついてまわる。
屋外で寝る人の平均死亡年齢は47歳。路上で暮らす人は、住宅で暮らす人の17倍暴力の被害に遭う確率が高い。
「もうこれ以上無理だと感じている。おカネを貯めようとしているが難しい」と、ウォータールー橋の下で暮らす数人の男性グループの中にいたジョンさん(19)は話した。
アンドリューさんには今では住む場所があるが、橋の下にいるホームレスの友人に会うために戻ってくる。アンドリューさんは、路上で過ごした最初の夜に、薬物を勧められたと話す。「いや、それはいらないと断ると、お試しでタダだしヒモ付きではない、と言われた」
自らは路上生活を脱出したが、アンドリューさんはジョンさんの今後を悲観している。「彼は路上生活から抜け出せない。支援なしには不可能だ」と、話した。
英国会計検査院(NAO)によると、地方行政府は2015─16年に、ホームレス対応に11.5億ポンドを費やしている。
NAOのエイミアス・モース院長は9月、「最近の(政府による)ホームレス削減策は、費用ほど効果を上げていない」と指摘した。
政府は、屋外で寝る人の数を2022年までに半分に減らし、2027年までに解消する目標をたてている。メイ首相は最近、ホームレス対策に5億ポンドを投入し、屋外で寝る人に対応するプロジェクトを始めると表明した。
「ホームレスの人や、屋外で寝る人をなくしたい」と、メイ首相は述べた。
だが、2010年から政権を握る保守党は、解決に向けて大した努力をしてこなかったとの批判や、今後問題は悪化するという警告も聞かれる。
「仮にいまの傾向がこのまま続けば、今後10年で、年間16万人のホームレスの数は25%増え、9100人いる屋外で寝る人の数は76%増加しかねない」と、PACの報告書は指摘した。
一方で、ホームレスとして何年も過ごした人にとって、路上生活を脱するのは難しい場合もある。薬物中毒の人はなおさらだ。
ピカデリー劇場の外にいたブライアンさんもその1人だ。問題を抱えてはいても、子どもからおカネを受け取るのは拒否していると話した。最近、1人の女の子がポケットから自分のおカネを出して渡してくれた時のことを振り返る。
「そしてその後、私は座って泣いたんだ」
(撮影:Mary Turner, 文責:Michael Holden)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab