ブログ:トランスジェンダーのムエタイ選手が得た「勝利」

ブログ:トランスジェンダーのムエタイ選手が得た「勝利」
 7月25日、真っ赤な口紅を引き、ピンクのタンクトップと短パン姿のノン・ローズ・バーン・チャロンスクさん(写真)は、タイの国技ムエタイの選手である。トランスジェンダーの彼女は、手ごわい対戦相手だ。バンコクで13日撮影(2017年 ロイター/Athit Perawongmetha)
Athit Perawongmetha
[バンコク 25日 ロイター] - 真っ赤な口紅を引き、ピンクのタンクトップと短パン姿のノン・ローズ・バーン・チャロンスクさんは、タイの国技ムエタイの選手である。トランスジェンダーの彼女は、手ごわい対戦相手だ。
ローズの名で知られる彼女と、今月対戦して敗れた男性ファイターのカルン・「プリューパク」・ケンラム選手に話を聞いてみればいい。
「彼女の鍛え抜かれた強さに太刀打ちできなかった」とプリューパク選手。
「彼女は男のように戦う。本当は男だからね」と付け加えた。プリューパク選手は首都バンコクにあるラジャダムナン・スタジアムで行われた試合で、右目の上に深い傷を負った。
先月、ムエタイ最高峰の舞台の1つである同スタジアムで戦った初のトランスジェンダーボクサーとなったローズさんにとって、これで2連勝だ。
観衆は明らかに彼女の味方で、試合中ずっと熱狂的な声援を送っていた。
「トランスジェンダーであることは、必ずしも弱いことを意味するわけではない」と、ローズさんは試合後に語った。「私たちは何でも成し遂げることができる」
現在21歳のローズさんは、ムエタイ選手のおじに勧められ、8歳でこの競技を始めた。双子の兄弟も同じくムエタイ選手だ。
ソムロス・ポルチャロエンと名付けられて育ったローズさんは、幼いころから自分は女性だと認識し、リングに上がるときは化粧をして、スポーツブラを着けるようになった。
試合の大半は地方の町で行われるが、男性の対戦相手の中には彼女の容姿に動揺する人もいる。
「勝っても負けても恥ずかしいから、同性愛者と戦いたくなかったと言う人もいる」とローズさんは語る。
「いまだにそのような侮辱を受けるが、私は気にしない」
タイは、同性愛者やトランスジェンダーの楽園として広く見られているが、彼らの多くは二流市民のように扱われていると話す。
トランスジェンダーの女性は、テレビや美人コンテスト、美容院や化粧品売り場のカウンターで目立つ存在だが、ジェンダー差別を禁止する法律が2015年に施行されたにもかかわらず、身分証明書の性別は変更することができない。
ローズさんはこれまでに300試合を経験し、150勝のうち30KOを記録してようやく、ラジャダムナン・スタジアムで戦うことを許されたという。
ローズさんがトレーニングする北東部ブリラム県にあるジムのオーナー、プティポン・プルクラムさん(56)は、雑用やトレーニングでの彼女の勤勉さを挙げ、「素晴らしいロールモデル」だと称賛した。ローズさんは誰よりも走り込みをしているという。
「皆が彼女を尊敬し、あこがれている」とプティポンさんは話す。
ローズさんより前にも、トランスジェンダーボクサーは存在した。2004年に映画化もされたパリンヤ―・ジャルーンポン選手だ。現在は学校を経営しており、ローズさんもいつか自分も同じことができたらと願っている。
ローズさんはまた、ムエタイ大使として世界中を回りたいと考えている。そして、地方にいるトランスジェンダーの選手たちに、初期の挫折にくじけないよう訴えている。
「最初は落ち込むし、克服しなくてはいけない。でもその後は、ゴールはそう遠くないはず」

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