コラム:ニューヨーク・タイムズ紙、完全デジタル化の勝算

コラム:ニューヨーク・タイムズ紙、完全デジタル化の勝算
 7月26日、米ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙が、デジタル課金戦略を打ち出して新聞業界を驚かせたのは6年前だった。写真はニューヨークのNYT本社。2013年2月撮影(2017年 ロイター/Carlo Allegri)
Jennifer Saba
[ニューヨーク 26日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙が、デジタル課金戦略を打ち出して新聞業界を驚かせたのは6年前だった。それ以降、同紙の電子版購読者数は、ドナルド・トランプ氏の米大統領就任にも押し上げられ、増加を続けている。
ただ、紙面広告の売り上げは大幅に減少し、人員削減の不安をあおっている。ロイターBREAKINGVIEWSの分析によると、高コストの印刷版を全廃することは、急進的ではあるが、ばかげた戦略とはいえないだろう。
「灰色の貴婦人」の愛称がある同紙を潤してきた商業広告やお知らせ広告などの収入は、2014年から2016年にかけて、約25%減少した。その傾向が続くなか、同社は編集局の人員削減に着手している。
だが、紙面広告の減少により、輪転機をフル回転させ続ける必要性は低くなる。紙面広告と購読収入は、同紙の2016年売上高の3分の2を占めるが、その割合は減少傾向にある。また印刷コストは、支出の大きな割合を占めている。
さまざまな経営指標は、印刷版の紙面を廃止し、全てデジタル化することが妥当な判断となる段階に来ている。2017年の収入は、電子版購読者数の増加により、16億ドル(約1770億円)を超えると金融大手バークレイズは予測する。ここから、印刷版の紙面に関わる支出と収入を引いてみよう。単純計算すると、売り上げは2017年予測から58%減少するが、運営コストも40%減る。
昨年のNYTの決算は、収入が運営コストを1億5000万ドル近く上回る黒字だった。売上高が予測通りと仮定すると、「印刷版の収入とコスト抜き」の2017年決算は、同じ規模の額の赤字となる。
昨年と同程度の黒字にするためには、3億ドル程度の新たな収入が必要になる。BREAKINGVIEWSの試算によると、平均課金額約130ドルの電子版購読者が新たに140万人と、それに伴うデジタル広告収入の上振れが購読者1人当たり90ドル程度必要になる。
これは、かなり野心的だ。2017年の推定電子版購読者数を50%以上増加させることになる。しかし、印刷版紙面の購読者は100万人以上おり、その多くが電子版への移行を受け入れる可能性がある。オクス・シュルツバーガー一族が経営するNYTは2016年、電子版購読者を75万人超増加させた。今年は、それを上回る見通しだ。
購読者数が増えるにつれ、成長を維持するのは大変になる。NYT幹部は、同紙を攻撃するトランプ米大統領の押し上げ効果による電子版購読者の増加は、次第に減少する可能性があると指摘する。
だが、NYTが完全デジタル化に踏み切る最大の障害となるのは、同紙の歴史だろう。「印刷に値する全てのニュースを報道する」というのが、1896年以来、同紙のモットーであり続けてきたからだ。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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