コラム:ドラギECB総裁、次の難題は緩和解除の適切な時期
Neil Unmack
[ロンドン 9日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁に待ち受ける次の難題は、金融緩和の終了を宣言するタイミングだ。
ドラギ氏は9日の会見で、追加緩和の必要性が低下していると発言。ユーロ圏の物価上昇率がECBの目標に達し、今後もその近辺で推移する公算が大きい以上、ほかに言いようがなかった。しかし資産買い入れの打ち切りは甚だ厄介な仕事であり、ドラギ氏はできるだけ先延ばししようとするだろう。
ECBが理事会後に公表した声明文で、必要ならあらゆる政策手段を行使すると約束していた従来の表現が削除されたことが分かると、ユーロと欧州主要国債利回りが上昇した。これはECBが政策金利を過去最低の現行水準からはもう下げそうにないことを示唆している。ドラギ氏自身も追加緩和の「緊急性はない」と表明したが、もっともなことだ。
ECBが示した最新の見通しでは、変動の大きいエネルギー・食品を除いたコア物価上昇率は2019年が1.8%と、ECBが目標とする2%弱の範囲内に入る。資産買い入れの期限をもう延長すべきでないという実務的な理由も存在する。ECBが自ら定めたルールに基づけば、来年までに買い入れ対象のドイツ国債はなくなってしまいかねない。
だが、ドラギ氏が、いずれは避けられない緩和の解除をなぜ急ぎたくないかを説明できる材料も事欠かない。ユーロ圏の経済成長は上向いているが、賃金の伸びはなお低調で、本格的な景気回復に達するには依然としてECBの助けが必要な可能性がある。借り入れコストが上昇すれば、なおさらだ。
フランス大統領選では、反ユーロを掲げる極右政党の国民戦線を率いるマリーヌ・ルペン氏が第1回投票を勝ち抜く見通しで、投資家が動揺してフランスとイタリアなどの南欧諸国の国債利回りを押し上げている。世論調査の示す通り、ルペン氏が決選投票で敗北すれば、市場は落ち着きを取り戻すかもしれない。それでも政治的な不透明感が消えなければ、借り入れコストは投資に打撃をもたらす水準まで上がり続けるだろう。
ドラギ氏はこれまでさまざまな試練に直面してきたが、緩和解除のタイミングを見つけることは、それらよりもっと難しいと思い知らされるのではないだろうか。
●背景となるニュース
*ECBは9日、主要政策金利と中銀預金金利を据え置いた。ただ声明文から必要な場合に追加緩和すると約束した部分を削除した。
*ドラギ総裁は会見で、この「利用可能なあらゆる措置を行使する」とした表現の削除を理事会が決めたことについて、「一段の政策措置を講じる緊急性がもはや存在しない」と示唆するためだと説明した。
*ECBが示した最新の物価上昇率見通しでは2017年が1.7%、18年が1.6%、19年が1.7%となった。ECBの目標は2%弱。
*ECBは物価を押し上げる狙いで毎月800億ユーロの資産を買い入れ、中銀預金金利をマイナス0.4%まで引き下げている。4月以降は毎月の購入額が600億ユーロに減少する。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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