焦点:トランプ氏、大統領就任後も「非主流派」スタイル堅持か

James Oliphant
[ワシントン 20日 ロイター] - ドナルド・トランプ氏は、騒がしいセールスマンの作法と既存の政治秩序に対するあからさまな軽蔑が入り混じった、選挙戦開始当初と同じスタイルのまま、米国の第45代大統領に20日就任した。
これにより、トランプ氏は、国内外に明確なシグナルを送った。新大統領は選挙期間中と同じように統治に当たる。自身が所属する共和党にさえ歩み寄ることを拒み、米国民に直接メッセージを届けようとしているのだ。
トランプ氏は就任に際して、個人崇拝をホワイトハウスに持ち込むのではないかという選挙期間中に築き上げた懸念を払拭するような素振りをまったく見せなかった。現代米国史上最も対決色の強かった選挙において、彼に投票しなかった千万人単位の米国民に対する和解の呼び掛けも、ほとんどなかった。
リアリティー番組のスターだったトランプ氏は、米国の現実について、破滅的なビジョンを描き出した。犯罪と移民、テロ、不公正な貿易協定の包囲攻撃に見舞われている米国、というイメージだ。
「米国における殺りく、まさにここで、たった今終わりを告げる」と彼は宣言し、自らを「普通の米国民」の旗手であるように装った。
問題の深刻さを人々に警告した後、トランプ氏は選挙期間中と同様に、彼と彼の率いる「運動」が唯一の解決策であると提示した。統治に当たってパートナーとなる共和党議員たちには一言も言及しなかったし、もちろん、激しく対立してきた民主党関係者にはまったく触れなかった。
トランプ氏は政界のアウトサイダーとして選挙を戦い、民主党だけでなく、自分の所属する共和党の罪も批判してきた。連邦議会議事堂の階段で行われた就任演説でも、トランプ氏が、戦場に片足を置いたまま権力を握った反乱軍の指導者として、アウトサイダーとしての立ち位置を維持するつもりであることが明らかになった。
選挙期間中からのポピュリスト的なテーマを引き継ぎ、トランプ氏は政治家たちが多年にわたり国民を犠牲にして繁栄してきたと告発した。
トランプ氏は、就任演説のような機会によく見られる高遠な表現を避け、もっと無遠慮なポピュリスト的な宣言を選んだ。
「政治家は豊かになった。しかし、雇用は流出し、工場は閉鎖された」と彼は語りかけた。「主流派(エスタブリッシュメント)は自分たちを守ったが、この国の市民を守らなかった」
「私たちは権力をワシントンから、あなた方、米国民にお返しする」
群衆のなかでトランプ氏の就任演説を聴いていた、アイダホ州ナンパのアンドレア・フリードリーさん(52)は、演説を「強力なパンチ」にたとえ、トランプ氏が権力を国民に返すことを称賛した。
トランプ氏は選挙人団の過半数を制したが、総投票数では対立候補であるヒラリー・クリントン氏に300万票近い差をつけられた。それだけに、国内を団結させようという試みは非常に難しくなっている。
<アメリカ・ファースト(米国第一)>
「今日ここに集まった私たちは、すべての都市、すべての外国の首都、すべての権力中枢に聞かせるべく、新たな布告を発する」とトランプ氏は宣言した。「今日以降は、新たなビジョンがこの国を統治する。今日から先は、『アメリカ・ファースト』だ」
だが、インフラ関連投資の増額、国境管理の強化といったトランプ氏の提案、そして彼の演説に見られる孤立主義的な論調は、伝統的な共和党の優先順位と整合しない可能性がある。
その一方でトランプ氏は、保守の基本原則をおおむね支持するような閣僚を選ぶことにより、神経質になっている共和党関係者を安心させている。また彼は、オバマ前大統領による進歩的な政策の一部を撤回することを意図した大統領令への署名をさっそく開始する予定だ。
トランプ氏の就任演説では、貿易やグローバリゼーションといった要因によって取り残された米国民に言及する「忘れられた」という言葉にルーズベルト大統領、また「サイレント・マジョリティ」という表現を使ったニクソン大統領、さらには米国の偉大さの復活を約束する点でレーガン大統領の影響が見られる、と歴史研究者は指摘する。
ただし、プリンストン大学の歴史研究者ジュリアン・ゼリザー氏によれば、トランプ氏の演説の区切り方、わざとらしいジェスチャーには、「身体的・言語的に強い怒りが」過去の大統領よりも強く現れているという。
トランプ氏は、世論調査で自身に対して批判的な見方を示している過半数の米国民に対して、自らの主張を訴えようとする努力をほとんど見せなかった。その代わりに彼は、最も熱狂的な自分の支持者に直接語りかけようとしているように見えた。
トランプ氏の演説によって、最も思い起こされるのは、1981年にレーガン大統領が行った「経済的苦悩」と「稼働していない産業」に言及した演説である。
だが、レーガン氏が大統領の座を引き継いだときの経済は、スタグフレーションに苦しみ、失業率は7.5%に達していた。対照的に、退任したオバマ氏の下で、米国における民間部門の雇用は80カ月連続で増加し、失業率は4.7%に留まっている。
バンダービルト大学で米国大統領制の歴史を研究するトーマス・アラン・シュバルツ氏は、トランプ氏が描き出した状況は「恐らく、すべての米国民が共有するものではない」と言う。
それでも「国家的危機と衰退という感覚」に巧みに訴えている、と同氏は指摘する。
トランプ大統領の就任式を見るためにノースカロライナ州ムーアズビルから来たベリンダ・ビーさん(56)は、トランプ大統領がイスラム原理主義者によるテロとの戦いに成功し、政界のアウトサイダーであり続けると信じている、と言う。
「この国は今や、政治家のものではなく国民のものだ」と語った。
(翻訳:エァクレーレン)

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