コラム:米アップル、むやみな買収に走らずに済む理由
Robert Cyran
[ニューヨーク 25日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米アップルにタイム・ワーナーは必要ないことを、今回アップルが発表した7─9月期決算が証明している。
アップルは確かに手元資金が潤沢とはいえ、もしタイム・ワーナーを買収するなら、スマートフォン市場の前途を悲観していると自ら認めるという憂慮すべき事態になるところだった。実際には、新機種のそれなりの健闘とサービス収入の増加が、必死の合併・買収(M&A)路線に走るのを自制させる力になっている。
アップルは、売上高全体の約60%を占め、利益における割合はそれより大きい「iPhone(アイフォーン)」に業績が左右される。新型のiPhone7はバッテリーの持続時間が長くなり、処理速度が上がるといった細かい点ながらも数多くの改良が加えられた。ただ発売日が7─9月決算期末の1週間前だったことから、買い替えを促す魅力はあったものの、売上高全体(前年同期比9%減の約470億ドル)を増加させるには至らなかった。
一方で製品保証から音楽配信までのさまざまなサービス事業は好調だ。今や売上高全体の13%に達し、アップル製品利用者数が過去ほどのペースでないにしても依然伸び続けているため、サービス収入は前年同期比24%増加した。利用者が拡大した結果、アップストアの売上高や決済サービスのアップルペイ経由の買い物が増えた。アップルにはこれらの取引で手数料収入が得られる。
クック最高経営責任者(CEO)としては、コンテンツ企業の買収を通じてサービス事業の成長をさらに高めたいという誘惑に駆られるかもしれない。アップストアで提供する映画やその他の番組が増えれば増えるほど、手数料も集まる。そこでアップルがタイム・ワーナーを買うとなれば、提示額はAT&Tの850億ドルを超えただろう。しかしBreakingviewsの分析では、AT&Tの推定投資収益率は5.5%にとどまる。またこの案件は規制当局の厳しい審査が待ち受けている。
アップルには資本に打撃を与えるような取引に関わるよりもっと良い選択肢がある。より優れた機器の開発の方に多くの時間を使うことは可能だ。iPhoneの製品基盤の成熟度から見て、目を見張るほどの改良が施されたスマホを次に投入しなければ、大幅な増収は見込めない。それでも今のところはまずますの製品を持ち、市場の期待値も低い(アップル株はS&P総合500種に対して20%安い水準で推移)ので、株価は業績に影響を受けなかった。この点は馬鹿げたM&Aに動けという圧力を緩和するはずだ。
●背景となるニュース
*アップルが25日発表した7─9月の売上高は前年同期比9%減の469億ドル、利益は前年同期の111億ドル(1株当たり1.96ドル)から90億ドル(1.67ドル)に減った。
*iPhoneの販売台数は4550万台と、前年同期の4800万台を下回った。iPadは6%減の930万台、パソコンのMacシリースは14%減の490万台だった。サービス関連収入は24%増の63億ドルとなった。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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