
独自の進化を遂げたタイ料理
暑い季節には、暑い国の料理がおいしい。東南アジア料理もそのひとつで、唐辛子の辛さと香草類のエキゾチックな香りが織りなす料理はたまらない。そのなかでも、バリエーションの豊かさと味の複雑さを誇るのがタイ料理だ。
他国からの侵略も植民地化もされず、13世紀から続く王朝が料理文化を発展させてきたタイは、中国やカンボジア、マレーシア、ラオス、ミャンマーなど、周辺諸国の料理の影響を受けながらも、独自の文化を持っている。料理の特徴としては、魚醤、香辛料、香味野菜やハーブを多用した複合的な香りと、辛味、酸味、甘味、塩味の四味を巧みに織り交ぜた味付けに特徴がある。主食はご飯と米緬が中心だ。
日本で一番古いタイ料理のお店は、1979年にオープンした有楽町の『チェンマイ』(現在は閉店)で、その後、六本木『バンコク』、新宿『バンタイ』、錦糸町『ゲウチャイ』、阿佐ヶ谷『ピッキーヌ』、中目黒『チャンタナ』(閉店)、銀座『レモングラス』などの人気レストランができた。
1990年代に入ると、ライブを見ながらタイ料理を食べられる青山の『CAY』や、宮廷料理を中心とした目黒の『ゲウチャイ』(閉店)、アパレルメーカーが経営し、ワインとタイ料理を合わせた、西麻布の『ライステラス』などモダンなタイ料理店があらわれる。『コカレストラン』といった、タイ風鍋料理のタイスキのお店ができたのも90年代だ。新宿から大久保界隈には当時、タイ料理店が50店舗もあったという。
「トクヤムクンがない!」
現在、東京の大きい駅周辺には、タイ料理店が必ずあるまでに定着しているが、ここ数年は新規のお店が少ないのが現状だ。そんななか、去年12月に渋谷にできたのが『パッポンキッチン』である。
オーナーは代々木八幡にある『クリスチアノ』というポルトガル料理店の経営者で、タイに何度も遊びに行くうちに、現地のタイ人が食べているものを素直に出す食堂を作りたいと思いはじめたという。
この店の画期的なところは、日本人のイメージする有名なタイ料理がほとんどないことだ。なにしろトムヤムクンがない。タイ風カレーのゲーン・キョウ・ワーンも春雨サラダのヤムウンセンもない。炒め物では鶏のガパオも、さつま揚げのトーッマン・プラーも、焼きそばのパッタイも焼き鳥のガイ・ヤーンも、チキンライスのカオマンガイもない。・・・・・・この続きは『現代ビジネスブレイブ イノベーションマガジン』vol085(2014年7月24日配信)に収録しています

