新興国市場の火種、「脆弱な5カ国」からエジプト・タイに

By Carolyn Cohn
[ロンドン 23日 ロイター] - 新興国市場では「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5カ国)」(トルコ、南アフリカ、インド、インドネシア、ブラジル)の選挙が今年最大の政治リスクになるとの見方が出ていたが、これまでのところ、市場は選挙結果を好感しているようだ。
代わって懸念が高まっているのが、エジプトやウクライナの大統領選挙、ナイジェリアの治安悪化、タイの政情不安だ。
フラジャイル・ファイブでは今年選挙が相次いだ。ブラジルとトルコの大統領選はこれからだが、すでに実施されたインドと南アフリカの総選挙、トルコの地方選は、いずれも市場で大きく好感された。
インドでは、企業寄りの野党が圧勝。南アフリカとトルコでは、改革に意欲を示している与党が勝利を収めた。
先月総選挙が実施されたインドネシアでは、大統領選を控え、不透明感が根強いが、市場が大きく値下がりする展開とはなっていない。
UBSウエルス・マネジメントの新興国担当最高投資責任者、ホルへ・デ・マリスカル氏は「現時点では、懸念されていた事態──政局の不透明感にはつながっていない。市場は選挙結果を好感している」と述べた。
10月のブラジル大統領選は、現職で左派のルセフ大統領の支持率が上昇しており、市場で不安視される可能性がある。
ただ、フラジャイル・ファイブのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は、いずれもプレミアムが大きく低下しており、政治リスクに対する懸念が後退していることがみてとれる。
先進国の金融政策に対する見通しが半年前から改善し、米長期金利が低水準で推移していることも、高金利資産には支援要因だ。
昨年5%下落した新興国株式 は年明けから4%上昇。先進国を上回る上昇を記録している。
マークイットによると、ブラジルの5年物CDSプレミアムは年明けから約50ベーシスポイント(bp)低下し、155bp。南アフリカのCDSプレミアムも30bp低下し、170bpと1年ぶりの低水準。トルコのCDSプレミアムも50bp低下し、170bpとなっている。
<ウクライナ、エジプトが懸念材料に>
フラジャイル・ファイブに代わって投資家の懸念が高まっているのが、ウクライナ、エジプト両国の大統領選、ナイジェリアの治安悪化、タイのクーデターだ。
25日のウクライナ大統領選では、実業家のペトロ・ポロシェンコ氏が勝利する見通しだが、新政権は欧州とロシアの間で微妙なかじ取りを迫られる可能性が高く、投資家の不安は根強い。
ウクライナのCDSプレミアムは、一時記録した高水準からは低下しているが、ディストレスト(破綻)債の水準とされる1000bpを大きく下回る展開とはなっていない。
26─27日のエジプト大統領選は、前軍最高評議会議長のシシ氏の当選が確実視されているが、投資家の間では、同氏が国民の間で人気の高い補助金制度などの改革に乗り出せるのか、疑問視する声が出ている。また、増税に踏み切れば、消費や株価に悪影響が及ぶとの見方も出ている。
こうしたリスクはまだ市場に織り込まれていないという。
同様に、クーデターの起きたタイの見通しも不透明だ。タイ株式市場 は、新興国市場に対する期待を背景に年明け以降7.5%値上がりしている。
イートン・バンスのグローバル株式ファンドマネジャー、マーシャル・ストッカー氏は「タイ情勢を懸念している。今のタイ市場がファンダメンタルズを反映しているとは思えない。外国人は買っていない」と述べた。
来年初めに大統領選が実施されるナイジェリアでは、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」が200人以上の女子生徒を拉致するなど、北部の治安が悪化している。
ナイジェリアへの海外投資は、南部ニジェール・デルタの産油地帯に集中しており、治安悪化に対する市場の反応は総じて鈍いが、今後、市場の見方が変わる可能性もある。
政治リスク専門のコンサルティング会社コントロール・リスクスのアソシエートディレクター、ジョナサン・ウッド氏は「北部で起きていることが南部に波及するのではないかとの潜在的な懸念があり、当社の多くの顧客もこの点を心配している」と述べた。
ただ、これまでのところ、ナイジェリアの通貨ナイラ には高金利を背景に引き続き海外資金が流入している。
ナイジェリアをはじめとする新興国では、新政権が国民の反発を招かずに市場の期待する改革を実行できるかが、課題になりそうだ。

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