タイのインラック首相に対し、同地の憲法裁判所が7日、過去に首相が行った政府高官の更迭人事について、憲法違反と認定する判決を下した。憲法の規定では、首相は失職することになる。だがその場合、下院議会から新しく首相が選ばれるが、2月に行われた同議会選挙は、投票の妨害などが続出し、憲法裁が無効とする判決を下している。タイ政治は、ますます混迷の色を深めそうだ。

問題となっているのは、2011年、インラック氏がタイ初の女性首相に就任した後、国家安全保障会議(NSC)のタウィン事務局長を別のポストに異動させることによって、首相の親族を国家警察長官に起用したとされる人事。

7日付時事通信によると、この件について、憲法裁は判決で、「親族の利益のために人事に介入した、と信じる理由がある」などと指摘。インラック首相が、自分や他人の利益のために公務員人事に介入することを禁じた憲法に抵触すると判断した。

だがこのような形での、首相の失職は、タイの民主主義をますます後退させる危険性がある。

タイの政治は、日本と同じように、選挙で選ばれた国会議員が、国会で首相を選ぶ議員内閣制を採っている。だが実際には、国王が政治や軍、司法に大きな影響力を持つ。この国王はタイ仏教の擁護者でもあるが、このタイの上座部仏教(小乗仏教)は、細かな戒律によって、人々の自由を制約している現状がある。

また、現在タイ国内では、地方・農村部に支持基盤を持つタクシン派(インラック首相率いるタイ貢献党)と、都市部のエリート層に支持基盤を持つ反タクシン派(民主党)が対立している。だが後者の反タクシン派は、王室の権威を護ることを重視すると同時に、既得権益を守ることにもつながっている。

さらに、司法関係者の多くが反タクシン派をバックアップしており、裁判所はこれまでにもタクシン氏を支持する政党の解党命令や選挙結果の無効など、反タクシン派に有利な判決を出してきた。今回の首相失職の判決についても、政治的な判断が行われたことが考えられ、インラック首相は政治的に追い落とされたと見ていいだろう。

もちろん、指摘されているように、タクシン派の選挙買収などの問題は許されないが、ことあるごとに選挙結果を否定し続けることは、民主主義国としてのタイの存続を危うくする。

タイの混迷はまだまだ続きそうだが、今タイに必要なのは、政治の混乱の奥にある、人々の心、もっと言えば、宗教的な教えのイノベーションである。それがタイの民主主義を成熟させる、唯一の方法だ。(格)

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