マイナス金利導入、量が限界に達したからでない=黒田日銀総裁

マイナス金利導入、量が限界に達したからでない=黒田日銀総裁
 1月29日、日銀の黒田東彦総裁(写真)は金融政策決定会合後の会見で、ダボス会議に出発する前、「事務方に緩和策の検討を指示した」と明らかにし、日経平均株価が1万6000円前後、ドル円116円割れなど市場のリスク回避が高まったタイミングで決断したことを示唆した。2015年12月撮影(2016年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 29日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は29日の金融政策決定会合後の記者会見で、スイス・ダボスの世界経済フォーラムに出発する前、「事務方に緩和策の検討を指示した」ことを明らかにし、日経平均株価が1万6000円前後、ドル円116円割れなど市場のリスク回避が高まったタイミングで決断したことを示唆した。
マイナス金利を導入したのは従来の「量」の政策が限界に達したためではないと説明。今後は経済・市場の状況に応じて「量、質、金利を駆使して緩和を進める」と強調した。
黒田総裁は今回追加緩和に踏み切った背景として「中国をはじめ新興国や資源国経済に対する先行き不透明感から金融市場は不安定な動きとなっており、デフレマインドの転換が遅延するリスクの顕現化を未然に防ぎ、(物価上昇の)モメンタム(勢い)を維持するため」と説明。
日銀はすでに国債の3分の1を保有しているため、現在の年80兆円ペースの国債買い入れをさらに度々拡充するのは難しいとの見方が多いが、黒田総裁はマイナス金利を導入したのは「量的拡大が限界に達したということではまったくない」と説明した。
<マイナス金利、貸出金利には当然影響>
黒田総裁は21日午後の参院決算委員会で「現時点でマイナス金利政策を具体的に考えていることはない」としたほか、マイナス金利は「プラス面とマイナス面がある」と答弁したばかり。それにもかかわらず今回マイナス金利を導入した経緯について、わかりやすい説明はなかった。
マイナス金利の効果については「利回り曲線全般を引き下げ、消費や投資を刺激し、需給ギャップ縮小とインフレ期待の上昇で物価上昇率を目標の2%に引き上げる」と説明し、金利の押し下げで経済を刺激するメカニズムは従来の「量的・質的緩和(QQE)」と変わらない点を強調した。
日銀はこれまでマイナス金利は金融機関の収益を圧迫するとして否定的な見解を示すことが多かった。黒田総裁も「貸出金利は当然、下方の影響が出る」と一定の悪影響を認めたが、今回はマイナス金利の適用範囲を限定的にしたことから「金融機関に大きな影響が出るとは思っていない」と述べた。
今後の追加緩和手段が、量、質、金利のいずれになるかは「経済、市場状況に応じて会合で決める」とし、明言しなかった。
2年で資金供給量を2倍にして2%目標の達成を目指したQQEと比べ、マイナス金利政策は一般の人々にわかりにくいのでは、との質問に対し、「重要なことは中央銀行の物価目標への強いコミットメント、何でもやるということだ」としたほか、「政策の詳細を国民が理解しないと効果がないということはない」と反論した。
<中国資本規制に一定の合理性>
ダボス会議で黒田総裁は中国に資本規制を提案した経緯について「あくまで個人的意見」だが、「中国は資本流出リスクがあり、資本規制に一定の合理性ある」とした。
年初来の世界的な株価急落などリスクオフの動きを受け、金融市場では今後の米利上げに懐疑的な声も増えているが、黒田総裁は昨年12月の利上げは「米国経済の回復がよりしっかりしてきたとの判断。米経済の強い回復は米国にも世界経済にもプラス」と従来の見解を繰り返した。一方、今後の利上げペースについては「当然、米国経済を取り巻く状況を勘案して適切に決めていくだろう」との見通しを示した。
*内容を追加しました。

竹本能文、伊藤純夫 編集:山川薫

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