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親日交流育まれてきたタイ 中国の影も年々大きくなっている

村人は日本兵と村人の悲恋物語に特別な思いを抱いている

 観光客もめったに訪れないタイのミャンマー国境地帯に、現地民と戦前の日本軍との交流を展示した博物館がある。水稲や毛布、飯盒、鉄かぶと、タイ料理に欠かせない調味料となった「味の素」など、日本人兵士の遺留品や写真が多く展示され、終戦記念日の8月15日の午後2時(日本時間の正午)に、犠牲者への黙とうと慰霊祭が10数年前から行なわれている現地の様子を、ノンフィクションライターの善理(せり)俊哉氏がリポートする。

 * * *
 遺留品や写真のほかには、村人の心に残った交流のエピソードが紹介されているが、中でも若い日本人兵士と現地のタイ人女性とのラブストーリーを紹介するコーナーには強いこだわりが感じられる。

 高官の娘だった女性に、日本人兵士のフクダ上等兵は恋心を抱くようになり、熱烈なラブコールの末に恋が実る。

 やがて2人の息子を授かったが、戦後、帰還命令を無視した夫は逮捕の形で強制送還に。護送の途中で脱走を試みたが、足を撃たれて病院へ搬送されるなどあって、夫婦は永遠の別れとなった。

 博物館の壁には、こんなメッセージも刻まれている。

「臆病なものは愛を表明することができない。愛を表明するとは勇敢さの現れである」

 なお、タイにはこのエピソードと重ね合わせたくなる『クーカム』という50年以上のロングセラー小説がある。物語では、一人のタイ人女性が、嫌悪感を抱いていたはずの日本人兵士に惚れ込み、戦死で恋が終わる。作者が「できるだけ史実に沿って」を念頭に手がけた物語の映画化は4回、ドラマ化は7回に及ぶほどタイ国民に親しまれてきた。

 脈々と親日交流が育まれてきたタイだが、中国の影も年々大きくなっているのも事実だ。バンコクにある巨大なチャイナタウンに足を踏み入れればわかる通り、もともと中華系の文化が強かった。ここ数年は、中国からの観光客が大勢押し寄せるようになり、中国資本による「反日ドラマ」も放映されている。

 戦争を知る地元民の数も減っているなか、今回訪問した友好記念館の存在価値は高まっている。大国のプロパガンダに飲み込まれることなく、我々は70年前の友情を引き継いでいきたい。

※SAPIO2015年12月号

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