最終的に「発送電分離」を目指す電力システム改革が閣議決定され、具体的に動き出した。そこで改革の主体者として脚光を浴びるのが「新電力」である。すでに大口需要家への電力供給で自由化の恩恵を受けてきたが、小口自由化でさらに活躍の場が広がる。
もともとは、自社の工場用に自家発電設備(自家発)を持っていたメーカーなどが大手電力に電気を売ってビジネスを行っていた。特定規模電気事業者(PPS)と呼ばれ、太陽光や大規模風力発電所を自前で建てたりもしてきた。1990年代後半から電力自由化が始まり、工場などへの大口販売が自由化され、2005年からは契約電力が50キロワット以上の企業向けも対象になった。50キロワットといえば普通のスーパーマーケットの規模だ。
大規模な役所は新規参入電力から直接電気を買い、大手商社やエネルギー企業の参入も相次いだ。資源エネルギー庁は12年4月から、これらを「新電力」という呼び名とし、経済産業省は後押しもしてきた。会社ももう79社になっている。
電力システム改革の狙いは、発電者を競争させることにより、欧米と比べても割高な電気料金を引き下げることにある。地域独占だった従来の大手電力会社は「総括原価方式」という手法で、電気をつくるまでのコストを全部積み上げて料金を決めていた。それを新電力は、独自のコスト計算でより安く電気を提供する。東京都は都立中央図書館で新電力による部分供給を導入するなど、これまでの大口自由化では実績を積み上げている。
国内で電力を供給できる事業者の形態はいろいろあるが、新電力は3つの方法で電力を調達する。1つ目の方法は自社で発電設備を保有して電力をつくり出す。2つ目は、企業や自治体などの自家発電による余剰電力を買い取る。その中には固定価格買取制度による再生可能エネルギーも含まれる。3つ目に卸電力市場を通じて購入する方法だ。
こうした方法で調達した電力は、電力会社の送配電ネットワークを借りて利用者に供給する。これは「託送」と呼ばれる制度で、新電力は一般電気事業者に対して利用料を支払う。
やがて発送電分離が実現し、電力事業が発電と送配電、小売りの3事業部門が別会社になり、個々の発電会社や小売り会社と対等な条件で送配電ネットワークを利用する形になる。
しかしそう簡単に事は運ばない。顧客が新電力から電気を買いたいと思っても、現状ではつくれる電力量に限りがある。いまでも、全国の販売電力量に占める新電力のシェアは3・47%しかなく、とても電力システム改革の“主役”にはなれない。一から大規模発電所をつくるには、相当な計画性と資金もいる。新電力が将来的に競争力のある電力会社に育つにはもうひと山越えないといけない。 (産経新聞編集委員・小林隆太郎) =おわり