再送:〔アングル〕日本車メーカーがタイへの投資を再加速 賃金上昇など課題も浮上

*この記事は午後8時03分に配信しました。
 [バンコク 9日 ロイター] 首都バンコクまでが水に浸かった記録的な洪水から約1年、トヨタ自動車<7203.T>や日産自動車<7201.T>など日本の自動車メーカーが再びタイへの投資を加速させている。生産が麻痺する被害が出たにもかかわらず、今もタイを重要視するのは、日本車のシェアが高い上、部品メーカーの集積によって自動車産業が成熟しているためだ。しかし生産現場では、賃金上昇や人手不足といった課題も浮上してきた。輸出が増えてくれば、バーツ高の可能性もリスクとして考慮しておく必要も出てくる。
 「近い将来、タイでの生産規模を年間100万台レベルまで引き上げていきたい」──。トヨタの豊田章男社長は8日、バンコク市内で開いたタイ現地法人の50周年記念式典でこう語った。昨年の大洪水で日系の完成車メーカーや部品メーカーは工場が被害を受け、トヨタも生産停止に追い込まれた。しかし豊田社長は政府関係者やサプライヤー、ディーラーなど約1800人の出席者を前に、タイを世界の中核的な生産拠点として位置付けていく考えを示した。100万台まで増えれば、1国あたりの生産規模としては日本、米国に次ぐ大きさとなる。
 タイを重視するのはトヨタだけではない。日産は11月初め、2014年度の稼働を目指して新工場を建設すると発表。スズキ<7269.T>も今年3月から新工場で小型車の生産を始めた。
 タイの自動車市場は日系メーカーの牙城だ。トヨタの38.1%(2012年1─9月)という圧倒的なシェアをはじめ、いすゞ自動車<7202.T>やホンダ<7267.T>など、ほかのメーカーも加えるとシェアの9割を日本勢が占める。日本車への信頼感も高いことから、トヨタのタイ現地法人、トヨタ・モーター・タイランド(TMT)の棚田京一社長は、欧米や韓国のメーカーにとって「攻めにくい市場」とみる。日中関係の悪化で中国での事業環境が不透明になってきた今、日本メーカーにとってタイのような「計算できる」市場は、より重要性が高まっている。
 <バーツ高への懸念も>
 しかし、課題も浮上している。タイでは今年4月から一部の県で最低賃金が引き上げられ、労務費が増加しているという。デンソー<6902.T>のタイ現地法人、デンソータイランドのバンパコン工場では、期間工の1日あたり賃金が従来の200バーツ前後から300バーツに引き上げられるなど「人件費の上昇が大きな経営課題となっている」(デンソータイランドの朝岡龍治副社長)。来年1月には他の地域でも最低賃金が大幅に引き上げられ、1日300バーツとなる。
 人手不足も賃金上昇に拍車をかける。日産の現地法人、タイ日産の木村隆之社長によると「タイの場合は失業率が1%を下回り、完全就業状態に近い」という。人材確保のためには「ある程度レベルの賃上げを予測し、経営の要因として織り込んでいかなければならない」と語る。
 また、輸出基地としての役割が拡大してくれば、為替対策も必要になる。トヨタはタイを新興国向け世界戦略車の輸出拠点に活用しており、世界100の国と地域に供給している。今のところバーツの変動が収益に与えるインパクトは軽微としているが、TMTの棚田社長はバーツ高への対応を「先々の問題として考えていく必要がある」と話す。
 ただ、賃金上昇は経済成長の過程でどの国にも起きる。メリルリンチ日本証券のアナリスト、中西孝樹氏は、タイで車両を生産することのメリットは、もはや工賃の安さではなく、成熟したサプライヤーの集積によって、常に生産性を高める土壌が育まれていることだと指摘。「部品メーカーの品質や競争力も考慮すると、タイは日本車メーカーにとって最も重要な生産拠点」だと語る。
 (ロイターニュース 杉山健太郎;編集 久保信博)
※(kentaro.sugiyama@thomsonreuters.com;03-6441-1115;ロイターメッセージング:kentaro.sugiyama.reuters.com@reuters.net)
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