子ども向けの玩具が最近おかしい、という話題を度々ご紹介しているが、またもや狂気を感じる商品を見つけてしまった。これからの季節にぴったりの、手づくりチョコレート玩具「チョコズキッチン」。子どもの創造性や達成感を育くむ、いわゆるクッキングトイだ。

パッケージの完成見本も食玩みたいで可愛らしい。物づくりは何歳になってもおもしろいからね、と作ってみたら……気力と自信を根こそぎ持っていかれる鬼の難易度だった。これは、ままごと遊びの皮をかぶった職人修行だ……!


・「チョコズキッチン」(希望小売価格:税抜3500円)

本物そっくりのミニチュアフードをチョコレートで再現できるこのキット。対象年齢は8歳以上で、40種類ものアイテムを作れるという。湯せん用のトレイや、チョコ型、ディスプレイに使うミニチュア家具などが入っている。

完成品に敷くデザインペーパーもたくさん入っていて、SNS映えしそう。チョコが染みこまないツルツル素材だ。


・買い物でいきなり苦戦する

作業には、材料となる板チョコが必要だ。チョコレートの色がそのまま完成品の色になるので、多様なチョコがあった方がよい。説明書では「ミルクチョコ・ホワイトチョコ・ストロベリーチョコ・抹茶チョコ・バナナチョコ・キャラメルチョコ」の6色が例示されていた。

筆者は喜び勇んで、地域ではそこそこ大きなスーパーに買いに行った。が、しかし。


茶色い普通の板チョコや、ホワイトチョコはどこでも手に入る。しかしそれ以外の色を見つけるのが至難!

果物も抹茶もお菓子の一部としてはあるけれど、「抹茶だけ」「バナナだけ」の板チョコなんて希少。第4のチョコレートといわれる「ルビーチョコレート」ならきれいなピンク色だが、どこにでもあるものではない。

かろうじて、グリーンを表現できそうな森永のピスタチオチョコを見つけたが、1箱400円近い高級品……!

さらに苦肉の策として100円ショップで色とりどりのチョコペンを買い求めた。もともとデコレーション用で、わずか13gなので足りるか心配だ……。


・調理開始

それでは調理を開始する。キットにはスプーンなどの調理用具も入っていたが、使い慣れた自宅の食器を使った方がよさそう。

ピンク色については「アポロ」を買い、錬金術で作り出すこととした。ちまちまとアポロを分割する地道な行為を続ける。なるべく色が混ざらないよう、残った茶色を削ぎ落とす作業もした。これ、子どもにはできないよ。

ようやく湯せんにたどり着いた。湯せんトレイは4色を同時に溶かすことができる便利な仕様。筆者が用意したのは……というか用意「できた」のは、ブラウン、ホワイト、アポロから生まれた濁ったピンク、高級ピスタチオの4色だ。

湯温は約50~55度。本来必要な「テンパリング」という作業を省略するために、チョコレートの細胞を壊さない温度で溶かすのだと解説がある。震える手で1口20円のピスタチオも投入する……。

いい具合にチョコレートが溶けたら型に流し込む。これがメインとなる工程! もっとも楽しく、もっとも難しい作業だろう。1色で出来上がる食器や鍋は簡単。好きなチョコレートを注ぎ入れるだけだ。

しかし、2色や3色からなる複雑な形を作りたい場合、1層目を作って固める → 2層目を作って固める → 3層目を……という作業を繰り返す。

たとえばピザなら、サラミやピクルスとなる部分をまず固めてから、ピザ生地を流し入れる……といった具合。チョコペンやつまようじ、時には自分の指やティッシュを使いながら細かく調整していく。トントンと振動を加えて空気を抜く作業も大切だ。

とろりと糸を引くチョコレートは思い通りにならず、種類によって粘度も違う。たとえばホワイトチョコは他よりも溶けやすくサラサラの質感で、かつ固まりにくかった。それらの素材を使い分け、適切に色を重ねていく……職人芸か!

最難関、お子さまランチに挑戦する! 使用する色は6色!! まずはハンバーグ部分の茶色いチョコを流し入れ、ライスのグリーンピースを「ちょん」と置く。スプーンではとても作業できないので、使うのはつまようじ。完全に固まってから次の色を入れるべきだが、隣接しない部分は同時に作業できる。

ある程度固まったら、エビフライ部分やライス部分を流し入れる。エビフライの尻尾のような極小部分はチョコペンが本当に役に立った。

すべてを流し込んだら冷蔵庫で冷やす。物資の枯渇……つまりチョコ不足ですべての型が使えなかったのが残念だ。小さめのチョコは1時間、大きめのチョコは2時間の冷却時間が必要。これは1日仕事だな……。


・それから2時間後……

待っているあいだに、ミニチュアの家具を組み立てておく。完成品のディスプレイに使うものだ。

2時間後、いよいよ型から出してみる。外側からは上手くできているように見える。型はポリエチレンで軟らかいので、ぐねぐねとひねるとチョコが外れる。

おおっ、いい感じ……かと思われたが、やはりチョコの種類によって固まり具合に違いがあり、上手く外れないものもある。特にピスタチオが固まりにくい。では渾身(こんしん)の力作、お子さまランチはどうか……


なんだこれはー!!


それぞれのチョコが固まらず、ねばついた状態で、上手く型から外れなかった……。尻尾なんて取れてるし。


また、型から外した後に組み立てや加工が必要なパーツもあるのだが、ご想像のとおりチョコは室温でどんどん溶けていく。

手で作業などしようものなら、あっという間にヌルヌル、ドロドロになる。1度どこかに設置したら、もう2度と動かせないと考えた方がいい。時間との戦いだ。

見本では、型から外したチョコにさらに目鼻を足してクマにするようなアイテムもあったが、どう考えても無理だろ……。

その分、上手くできたアイテムは素晴らしい。色分けが成功すると本物の料理みたい。具材に見立てたドライフルーツを足すなど、試行錯誤の余地もある。工夫次第でかなり凝ったものが出来上がると思う。「頑張ればこんなアイテムが作れますよ」という目標地点には、一切の妥協がない。


・ぜひやってみて……?

繰り返すが、これは対象年齢8歳以上の玩具。どこの世界にこんなことができる小学校3年生がいるんだ!

大人でも楽しめる……どころか大人が持てる限りの英智をつぎこんで、ようやく形になるシロモノだった。最近の玩具業界は本当に恐ろし……もとい楽しい。「子どもだまし」じゃなく、本気で挑戦しがいがある。上手く作れば、完成品のクオリティもすさまじいぞ。

せっかくなので製菓用チョコレート各色を用意してから取り組むことをオススメする。あと、たぶん「テンパリング」なる作業は省略せずにやった方がよい。1度湯せんしたチョコを温度を測りながら冷やして……ってこれもう遊びじゃない!


参考リンク:株式会社メガハウス
Report:冨樫さや
Photo:RocketNews24.