コラム:ソフトバンクGのヘッジファンド型新投資、誰のためか

コラム:ソフトバンクGのヘッジファンド型新投資、誰のためか
2月17日、ソフトバンクグループ傘下の巨額ファンド「ビジョン・ファンド」を率いるラジーブ・ミスラ氏は狡猾なヘッジ戦略の持ち主なのかもしれない。写真はソフトバンクのロゴ。都内で2014年12月撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)
Liam Proud
[ロンドン 17日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ソフトバンクグループ<9984.T>傘下の巨額ファンド「ビジョン・ファンド」を率いるラジーブ・ミスラ氏は狡猾なヘッジ戦略の持ち主なのかもしれない。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は16日、ミスラ氏が上場企業に投資するため最大40億ドルの調達に動いていると報じた。このアイデアは恐らく、アブダビやカザフスタンの政府系ファンドといった可能性のある投資家にとってよりも、ミスラ氏や同氏の上司である孫正義グループ会長にとって、良い結果を生むだろう。
FT紙によると、ミスラ氏と、同僚であるビジョン・ファンドのマネジングパートナー、アクシェイ・ナヘタ氏は、上場企業に複雑な投資をするに当たり、ヘッジファンド型の手段を使う可能性がある。これは、ソフトバンクグループが昨年、決済サービス企業ワイヤーカードの転換社債を取得した案件に似ているという。
一見すると、このアイデアは、ウーバー・テクノロジーズやスラック・テクノロジーズ、バイトダンスなどの若い新興企業に孫氏やミスラ氏が関わったやり方とは食い違って見えるし、ソフトバンクグループのキャッチフレーズ「情報の革命-誰にも幸せを」とも矛盾して見える。
ただ、そうした投資手段の対象は上場企業であると同時に、引き続きハイテク企業だ。金融工学も明らかに、ビジョン・ファンドのセールスポイントの1つだ。ビジョン・ファンドは、ミスラ氏が以前勤めたドイツ銀行などのバンカー出身者でひしめき合っている。同ファンドは2017年から19年初めにかけて半導体の上場企業エヌビディアへの投資額を4倍以上に増やしたが、18年の株価急落を切り抜けるのに役立ったのはデリバティブの活用だった。
肝要なのは、ミスラ氏と孫氏がビジョン・ファンド第2弾の外部資金の確保に苦戦していることだ。従って、もしミスラ氏の新しい投資手段がアブダビやカザフスタンの政府系ファンドの関心を引いたのなら、彼らの影響力のほとんどを引っ張ってこない手はないだろう。ビジョン・ファンドが大枚を出資している既存の新興企業群が実体より割高に評価されていることがたとえ分かった場合にも、今回の投資手段を用いれば、ソフトバンクグループは理論的には利益計上を維持することができるかもしれない。
それに、もし新規の投資が失敗しても、それはミスラ氏や孫氏にとっては他人の資金なのだ。
しかし、こうした考えは投資家候補には意義が乏しい。買い手法のみで上場ハイテク企業に賭けたいファンドは、もっと値段がかさばらず、もっとリスクの少ない方法を見つけることもできる。ミスラ氏や同僚らは上場企業への投資実績は限定的だし、攻撃的な投資の仕組みは、状況が悪化した場合に損失を拡大させかねない。
しかし、最初のビジョン・ファンドへの出資でこうしたリスクが投資家をおじけづかせることはなかったし、ミスラ氏の新しい賭けに資金を流入させるのを阻むこともないかもしれない。 
●背景となるニュース
*英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は16日、ソフトバンクグループの「ビジョン・ファンド」の運営責任者ラジーブ・ミスラ氏がヘッジファンド型の投資手段をつくるため、数十億ドルを準備していると報道。投資対象は上場企業になるとした。
*この計画はアラブ首長国連邦(UAE)アブダビの政府系ファンド、ムバダラ・インベストメントや、カザフスタン政府から支持を得ており、両者は最大で計40億ドル程度の投資を検討しているという。
*新ファンドの運用責任者はビジョン・ファンドのマネジングパートナーであるアクシェイ・ナヘタ氏になる。ナヘタ氏は昨年、決済サービスを手掛けるドイツの上場企業、ワイヤーカードへの投資を指揮した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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