コラム:株高でも身構える日本企業、動き止まった中国を注視

コラム:株高でも身構える日本企業、動き止まった中国を注視
 2月6日、新型コロナウイルスの感染拡大が中国を中心に依然として止まらない。世界のマーケットは楽観論が優勢で大幅な株高となっているが、日本の企業経営者はより慎重なスタンスを取っている。写真は青島のコンテナ貨物ターミナル。2月4日、山東省で撮影(2020年 cnsphoto)
田巻一彦
[東京 6日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大が、中国を中心に依然として止まらない。世界のマーケットは楽観論が優勢で大幅な株高となっているが、日本の企業経営者はより慎重なスタンスを取っている。そろって注目しているのが、中国における企業活動再開のタイミング。湖北省を除く主要な地域では、10日から操業再開を予定している企業が多いものの、感染者数が増加を続ける中で、本当に稼働できるのか──。
もし、操業再開後に感染者数が急増し、再び操業停止に陥った場合、日本だけでなく米欧企業も含め、サプライチェーン(供給網)の大幅な修正を余儀なくされ、グローバルにみても、フル生産に戻る時期は、大きく先送りされることになりかねない。その結果として、日本企業の収益が大幅に下押しされるだけでなく、中国経済における消費の急激な「減退」による需要減少が、世界中の企業の収益を悪化させることになる。
中国における操業再開の時期とその後の生産テンポが、この先の展開を大きく左右する。
<はっきりしない中国での操業再開時期>
足元での大幅な株高とは対照的に、企業経営者の見方は慎重だ。9日まで中国の全工場での稼働停止を決めている村田製作所<6981.T>は、10日からの稼働再開について「(中国当局から)追加指示などがあるかもしれず不透明」(3日の決算発表で南出雅範取締役)と説明。
東京エレクトロン<8035.T>は1月30日の決算発表で「ウイルスがどれくらいの規模・速さで広まるのか、あるいは落ち着いてくるのかで、大きく変わってくる」(笹川謙経理部長)とし、業績への影響は稼働再開の時期とその後の操業度合いで大幅に変動しそうだとのスタンスを示した。
このため現段階で通期の業績見通しに「新型肺炎の感染拡大の影響は含んでいない」(4日の決算会見でソニー<6758.T>の十時裕樹・最高財務責任者)という企業がほとんど。今回、業績見通しの上方修正を発表したソニーだが、十時氏は「今後の事態の進展によっては、上方修正を打ち消す規模の大きな影響が出る可能性も否定できない」と述べ、中国での工場稼働時期の大幅な延期などがあった場合に、大きな影響が出かねないとの懸念も示した。
<湖北省以外で10日から再開できるのか>
こうした企業サイドの見方は、政府・日銀などの政策当局も共有しているもようで、短期的に最大のポイントは、1)湖北省を除く主要な地域で10日から企業活動が再開できるのか、2)武漢を含む湖北省で14日から再開できるのか──の2点に絞られる。
中国政府が6日に公表した感染者数は、前日比3694人増の2万8018人。このうち湖北省が1万9665人と全体の70%を占める。増加数に鈍化の兆しがみえず、このまま10日ないし14日から稼働を再開できるのか、現段階では予断を許さない。
仮に湖北省以外で10日から稼働を再開させ、その後に感染者が急増した場合、再び中国全土で操業をストップさせる事態に追い込まれれば「急騰している株式市場が、一気に急落しかねないショックを与える」(国内銀行関係者)とみられ、中国当局は重要な判断を迫られることになる。
<2月末に休業か稼働か、それが問題>
今後の展開としては、短期的に影響が収束するAパターンと、長期化するBパターンに大別される。Aパターンでは、中国当局の示した予定通りにビジネスが再開され、その後も感染者の再拡大が生じず、日本経済や企業業績への影響も軽微にとどまる。
また、再稼働が延期されても、2月末までに再開できれば「想定内」の変動として説明でき、混乱は最小限に抑制されるだろう。
一方、3月に入っても稼働が再開できないBパターンでは、マクロ経済や企業収益に大きな打撃が加わる。第1に想定されるのは、サプライチェーンへの影響だ。パナソニック<6752.T>の梅田博和・最高財務責任者は、中国の生産停止が長期化した場合に「一部製品での影響は避けられないだろう」(3日の決算発表)と指摘。
ソニーの十時氏もイメージセンサーや家電などの「製造・販売・サプライチェーンで多大な影響が生じる」と警戒を強めている。
現実に出荷遅延の例も出始めた。任天堂<7974.T>は6日、新型コロナウイルス感染の影響で、中国で生産している家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」や周辺機器の生産、出荷の遅延が避けられないと発表した。
<サプライチェーン再編も>
中国製部品への依存度が高まっている自動車業界では、さらに深刻な影響が出かねない。
6日に決算を発表したトヨタ自動車<7203.T>は、中国製部品の在庫状況を確認し、代替生産が「可能かどうかを今、精査中」(同社執行役員)とし、サプライチェーンの見直しに向け、動き出していることを認めた。
その他の自動車メーカーも「(感染拡大が)長期化すれば当然、生産に支障が出てくる」(5日の決算会見でマツダ<7261.T>)と身構える。
5日のNY市場では、米電気自動車メーカーのテスラの株価が14%急落。中国で生産される「モデル3」の出荷が、新型コロナウイルスの影響で一部に遅れが出ると公表されたためだ。
サプライチェーンの変更は、トヨタなどのグローバル企業にとっては「可能」なことだが、コストと時間がかかることを考慮すれば、業績にとっては大きな重しにならざるを得ない。
<米中通商合意、2000億ドル輸入は未達に>
日本企業に限らず、米欧企業にとっても死活的なのは、Bパターンの場合、中国の消費自体が落ち込んだまま、回復の時期が不透明になることだ。
米ファッションブランド持ち株会社、カプリ・ホールディングスは5日、感染拡大の影響で売上高が1億ドル減少するとし、通期業績見通しを引き下げた。
居酒屋「和民」を展開するワタミ<7522.T>は、中国の直営7店の全てを撤退することにした。感染の広がりで客足が急減したためという。
今後、あらゆる分野で中国における需要が減少し、日本企業にとって中国ビジネスの再構築が喫緊の課題に浮上している。
マクロ経済的には、さらに大きな影響が出かねない。その最たる項目が、米中通商協議における「第1弾合意」だ。中国は2年間で2000億ドルの米製品・サービスの購入増を「約束」したが、新型コロナウイルスに直撃された中国内需が、その増加分を吸収するのは不可能に近い。
目標未達成の場合に、自然災害や「予見できない事由」と認定して米国が緩やかな対応にとどめるのか、それとも「強硬姿勢」に転じて、関税引き上げなどを突き付けるのかによって、マーケットのリスク心理は大きく振れることになる。
2月中に中国ビジネスが、以前の稼働状況に戻るかどうか。ここが最大の分かれ道になりそうだ。
(編集:石田仁志)
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