コラム:香港取引所のLSE買収案、金額以外にも難点
Peter Thal Larsen
[ロンドン 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 香港とロンドンには、政治的な混乱に苦しんでいる金融センターという共通点がある。だが香港取引所(HKEX)<0388.HK>の李小加最高経営責任者(CEO)にとって、「逃亡犯条例」改正案に端を発した数カ月にわたる香港の抗議デモや、欧州連合(EU)離脱を巡る英議会の紛糾は、2つの都市の取引所を統合しようという自らの野望の妨げにはなっていない。李氏は11日、ロンドン証券取引所(LSE)を現金と株式合わせて370億ドルで買収する計画を発表したのだ。LSEが標的から逃れるのを阻止する上で、ぎりぎりのタイミングで動きだした。
LSEが買収を持ち掛けられるのは、もはやおなじみの風景になっている。ベレンベルクのアナリストチームの集計では、2000年の上場以降で平均2年半に1回、買収を提案されてきた。今回のHKEXの場合は、より差し迫った状況にある。LSEのデービッド・シュワイマーCEOが先月、買収を仕掛ける側に転じ、金融情報会社リフィニティブを270億ドルで取得することに合意したからだ。この手続きが完了すればLSEは時価総額が約400億ドルに達し、もはやHKEXの手の届かない存在になる。
だからHKEXの提案は、LSEの株主がリフィニティブ買収を拒絶することが前提だ。実際、HKEXが示したLSE1株当たり83.61ポンドという買収額は、LSE株主を考え直させるだけの魅力がある。10日のLSE株終値を23%上回り、7月にLSEのリフィニティブ買収が報道される前に比べると47%も高い。
しかしHKEXが発表した計画にはいくつか難点もある。HKEXが見積もったLSEの評価額は、リフィニティブのまとめた市場予想ベースで見た今年のLSEの利払い・税・償却前利益(EBITDA)の26倍に上るが、李氏はそれを正当化するための詳しい説明をほとんどしていない。東と西をつなぐ世界的な取引所を創出するという大構想も、具体的なコスト節減規模や、統合後の両社が獲得できそうな新たな収入源の代わりにはならない。HKEXは買収額の4分の3を株式で支払うとしているため、同社の株主の反応が鍵を握るだろう。
英政府も介入してくるかもしれない。李氏は11日、HKEXが12年にロンドン金属取引所(LME)を買収できたことを引き合いに出して、英国が外資に門戸を開いていると称賛した。ジョンソン首相は、HKEXの買収提案を英国に対する信頼の証だと好意的に受け取るかもしれない。ただジョンソン氏の反対勢力は、中国政府の影響力が日増しに強まっている香港を拠点とする企業の手にLSEをむざむざ委ねるものだ、と同氏を非難するのは間違いない。ロンドンの金融センターとしての地位を奪おうと欧州大陸のライバルたちが活動している中で、英当局がロンドンの金融インフラを不安定化させる要素に神経をとがらせる面もあるとみられる。
最後に、LSEが買収されそうだとなれば、ずっと前から秋波を送ってきたCMEグループやインターコンチネンタル取引所などが参戦してくるのではないか。HKEXがLSEの単独経営路線に終止符を打とうとしても、乗り越えるべきハードルはまだ数多く残っている。
●背景となるニュース
*香港取引所(HKEX)は11日、ロンドン証券取引所(LSE)に約300億ポンドでの買収を提案したと発表した。
*HKEXによると、LSE1株に対して現金で20.45ポンドとHKEXが新たに発行する2.495株を提供する。HKEXの10日の株価終値に基づくと、LSE1株当たり83.61ポンドと評価した形だ。
*提示額は、LSE株の10日終値に23%のプレミアムを乗せ。LSEがリフィニティブ買収を発表する前の7月26日の水準を47%強上回っている。
*HKEXは、LSEの株主がリフィニティブ買収を拒絶することが今回の買収の条件と説明した。
*LSEは、リフィニティブ買収の決意は変わらないと表明するとともに、HKEXの提案を検討し、「いずれ」さらなる発表をすると付け加えた。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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