「マオタイ」に酔う中国株市場、日本株が出遅れる訳

クロスマーケット:「マオタイ」に酔う中国株市場、日本株が出遅れる訳
 4月8日、中国株が意外感のある上昇を続けている。景気減速が懸念されながら、上海総合指数は約1年ぶりの高値。なぜ中国市場には内外からマネーが流れ込み、一方で日本株は出遅れているのか──。写真は上海で昨年9月撮影(2019年 ロイター/Aly Song)
[東京 8日 ロイター] - 中国株が意外感のある上昇を続けている。景気減速が懸念されながら、上海総合指数<.SSEC>は約1年ぶりの高値。なぜ中国市場には内外からマネーが流れ込み、一方で日本株は出遅れているのか──。その理由の一端を、中国の製造業で時価総額トップの高級酒メーカー、貴州茅台(マオタイ)<600519.SS>に見ることができる。
<トヨタに迫る時価総額>
マオタイ酒は、中国貴州省産の高級白酒で強い芳香が特徴。飲み干したグラスにも香りが残るとされる世界三大蒸留酒の1つだ。1972年の日中国交回復の宴席では、当時の周恩来首相と田中角栄首相が、この酒で乾杯したことで知られ「国酒」と称される。
貴州茅台の時価総額は2月末時点で9484億元(約15.3兆円)。上海証券取引所全体の4位で、銀行や石油などを除いた製造業の時価総額でトップだ。昨年12月末時点では、7608億元(約12.5兆円)だったが、足元では1兆0900億元(約18兆円)まで膨らんでおり、上海株を押し上げている。
時価総額では、ジョニーウォーカーを保有するディアジオ(Diageo)の約10兆円を大きく上回り、アルコール飲料メーカーとして世界最大。日本企業でみれば、ソフトバンクグループ<9984.T>の12兆円を上回り、22兆円でトップのトヨタ自動車<7203.T>に迫る。
貴州茅台株は年初来で50%超上昇しており、8日には上場来高値となる908元を付けた。株価収益率(PER)は30倍超と高いが、中国株初の1000元が視界に入ってきたとの見方もある。
好調な株価の原動力は業績だ。2019年のマオタイ酒の販売目標は3万1000トン。18年目標を10%上回る。2018年の純利益は、前年比30%の大幅増益となった。今年の第1・四半期も暫定ベースで、純利益が約30%、売上高が約20%、それぞれ増加している。
<中国株の特殊事情>
ただ、トヨタに迫るほどの時価総額に押し上げた株高の原動力は、業績だけとは言い切れない。トヨタに迫る時価総額にまで膨らんでいるのは、中国株市場の特殊事情も絡んでいる。
現在、中国経済を代表する企業と言えば、アリババや騰訊控股(テンセント・ホールディングス)<0700.HK>などだが、どちらも上海証券取引所には上場していない。アリババはニューヨーク、テンセントは香港に上場しており、中国の投資家は自国の証券市場ではこれらの株を買えない。
「オールドエコノミー株に投資せざるを得ない中国の個人投資家が、消去法的に貴州茅台株を買っている面もある」とAIS CAPITALの代表パートナー、肖敏捷氏は話す。
一方、東海東京調査センター・ストラテジスト、王申申氏は「中国では、個人投資家の信用取引が再び活発化しており、金融緩和や規制緩和に伴い、再びマネーバブル的な様相も見え始めている」と指摘する。
かつて1本・1億円以上の値が付いたこともあるマオタイ酒の高級品が買われているのも、一種の投資商品としての目的からだという。さらに貴州茅台株へは、こうした人気をにらんだ海外投資家が、香港市場と上海市場の株式相互取引を通じて買いを入れている。
一時は「反腐敗キャンペーン」によって、地方政府などの接待需要が減少したが、現在は一般消費者向けに低価格商品を展開。国内消費を促進する中国の政策からも恩恵を受けると期待されている。「いろいろな中国事情が集約されているのが、貴州茅台の株だ」(王氏)という。
<中国景気の不透明感が日本株を圧迫>
上海総合指数を1年ぶり高値に押し上げる原動力となっているのは、米中貿易協議進展や景気刺激策効果への期待などもあるが、こうした特殊事情に加え、MSCIへの組み入れや、市場開放への期待など中国の景気見通しとは異なる要因も多い。
中国株に対し、日本株が出遅れている理由はそこにある。中国株が上昇しているのは、複数の特殊事情が後押ししているからであり、必ずしも中国経済もしくは見通しが急速に改善したわけではない。中国株の押し上げ要因が、日本企業の業績回復期待につながっておらず、日中株のギャップを大きくしている。
中国経済には、依然として先行き不透明感が漂う。全人代では、2019年の国内総生産(GDP)伸び率の目標を6.0―6.5%に設定した。28年ぶりの低水準に落ち込んだ昨年の6.6%を下回る成長率となる。
米中貿易協議がまとまればポジティブ・サプライズだが、米中問題だけが中国経済減速の原因ではない可能性もある。中国には、過剰設備や民間債務の拡大など構造的な問題が残っており、現時点で景気を吹かすわけにはいかない事情も抱えている。
「日本株の上値が重い理由は、企業業績への不安感に他ならない。そして企業業績減速の大きな要因は中国経済にある」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券、チーフ投資ストラテジストの藤戸則弘氏は指摘する。
日本企業の18年10─12月期決算では、中国要因による業績下方修正が製造業で目立った。4月1日に発表された3月日銀短観によると、大企業・全産業の18年度の経常利益は前年比1.4%減、19年度は同1.3減の予想となっている。
年初来の上昇率でみれば、上海総合指数の30%に対し、日経平均は9%。グローバルでみても、中国株が突出しており、日本株だけが出遅れているわけではないが、中国経済の明確な反転がなければ、日本株の上値の重さは拭えないかもしれない。

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