焦点:新元号は「令和」、転換点の景気 世界情勢が舵取り左右

[東京 1日 ロイター] - 新元号が1日、「令和」に決まった。「前向きな明るい未来が展望できる」(所功・京都産業大学名誉教授)など、慶祝ムードの高まりが予測されるが、明治以降、大正、昭和、平成と改元された際には、一定のタイムラグを経て、社会的、経済的に大きな変動に直面してきた。秋に消費増税を控え、戦後最長とされる景気拡大局面に転換の兆しも見られるなか、グローバルな情勢変化が新時代の舵取りを大きく左右しそうだ。
<広がるご祝儀ムード>
「令和」に対する専門家の受け止め方は、概ね好評だ。京都産業大学の所名誉教授は、「万葉集から採られたのは意外な点もあるが、漢字を使って表現する日本の文化を示している。なかよく、やわらかくという意味であり、21世紀の日本、世界にとって大事な価値を示している」と述べた。
東京大学史料編纂所教授の山本博文氏は「従来の元号が政治的な理想や国家的な理想を示していたのに対し、良い感じ、雰囲気を意味する元号である点が新しい」と指摘した。
安倍晋三首相は、新元号公表後の談話の中で「一人ひとりの日本人が、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる。そうした日本でありたい」、「希望に満ち溢れた新しい時代を、国民の皆様と共に切り拓いていく」と、新元号に込められた意義などを説明した。
初めての元号と言われている「大化」から「令和」まで、日本の元号は合わせて248。1300年あまりの歴史の中では、天平感宝(てんぴょうかんぽう)など漢字4文字で表記する時代もあった。
改元と景気の浮き沈みに直接的な因果関係はないとされるが、「改元に伴う『ご祝儀ムード』の高まりは、日本経済にプラス面の効果をもたらす」と、双日総合研究所・チーフエコノミストの吉崎達彦氏は指摘する。
今回は、天皇陛下が4月30日に退位され、5月1日に皇太子さまが即位される「生前退位」となる。東洋大学の鈴木洋仁・研究助手は、生前退位を前に消費を刺激する『さよなら平成キャンペーン』などが広がる現状に、「ご祝儀ムードは、すでに始まっている」と話す。
<昭和は金融恐慌とともにスタート>
一方、慶祝ムードの足元で、注意すべき現象も見え隠れするとの指摘もある。不動産アナリストの長嶋修氏は「元号が変わるときには、世界経済が大きく変わる」とブログで発信し、国内不動産市況の先行きに警鐘を鳴らしている。
実際、平成元年(1989年)はベルリンの壁崩壊後に日経平均<.N225>が3万8000円超の史上最高値を付けたものの、翌年からバブルが崩壊。その後、「失われた20年」とも呼ばれる「デフレ」の時代に突入した。
大正から昭和への改元では、第1次世界大戦中の好景気の反動不況による後遺症が長引き、昭和2年(1927年)に金融恐慌が勃発した。
昭和5年(1930年)には、前年の世界大恐慌に続く昭和恐慌で国内経済が疲弊。経済成長の可能性を中国大陸に求めようという空気が経済界にも広がり、軍部が主導した日中戦争に対する大きな反対世論は形成されなかった。
横浜国立大学の上川孝夫名誉教授は「たまたま元号が変わる時期が世界経済の大きな変動期に重なってきた」と説明する。「明治の初めは世界的な金本位制導入期、大正から昭和への両大戦の戦間期は、世界経済の中心が英国から米国に移行する時期に重なった」とみる。
現在は「米国一極から、米国・中国・欧州など複数の極が基軸通貨などを競う時代に移行しつつあるのではないか」と予測する。
 4月1日、新元号が「令和」に決まった。「前向きな明るい未来が展望できる」(所功・京都産業大学名誉教授)など、慶祝ムードの高まりが予測されるが、明治以降、大正、昭和、平成と改元された際には、一定のタイムラグを経て、社会的、経済的に大きな変動に直面してきた。写真は首相官邸で撮影(2019年 ロイター)
<景気の現状、政局のジンクス>
第2次安倍内閣が発足した平成24年(2012年)12月から始まった景気拡大期は今年1月に6年2カ月となり、政府は「戦後最長を更新した可能性が高い」との認識を示している。しかし、足元の統計では景気後退入りの可能性も浮上、3月の月例経済報告で政府は景気の総括判断を下方修正した。「令和」の時代を前に景気は転換点を迎えている可能性がある。
双日総研の吉崎氏は「明治から大正、大正から昭和、昭和から平成と元号が変わった後、4━6カ月以内に首相が交代しているジンクスもある」と指摘する。
今後、統一地方選や夏の参院選をにらんだ選挙モードに移行する中で、そのジンクスが、今回も動き出すのかどうか、まずは4月の統一地方選と衆院補選の結果に永田町関係者の注目が集まっている。
<膨張する債務と消費増税の行方>
平成を振り返って、マクロ政策面で突出している特徴の1つは、財政赤字の膨張だ。平成2年度(1990年度)にいったん、赤字国債脱却を達成したが、バブル崩壊で平成6年度(1994年度)に再び赤字国債の再発行に追い込まれ、累積した債務は、公債残高ベースで900兆円と、税収の約14年分にまで積み上がった。
平成18年度(2006年度)以降、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の赤字解消を目標に掲げ、平成27年度(2015年度)に中間目標である「赤字半減」は達成したが、黒字化そのものは新時代に先送りした。
その目標について、安倍首相は「国際公約と言ったことはない」と繰り返し発言し、市場の疑心暗鬼は絶えない。
疑い深い市場心理と密接にリンクしているのが、平成26年(2014年)11月と28年(2016年)6月に2回表明された増税延期の決断だ。「3度目の正直」となるか「2度あることは3度ある」となるのか、専門家の見方も二分され「再々延期される可能性は、十分に残っている」(みずほ証券・シニアマーケットエコノミスト、末廣徹氏)との声がくすぶる。
<首相の決断を左右する国際経済情勢>
首相の決断を左右すると見られているのが、海外経済の動向。第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は「元号と景気には何の因果関係もないが、世界経済には1980年代の米貯蓄貸付組合(S&L)危機、1997年のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショックなど10年サイクル説のジンクスがある」と指摘。次の危機は「中国が絡むのだろうと何となく思われている」と話す。
その中国経済に対しては「米中貿易摩擦の動向は金融市場に織り込み済みで、中国経済のハードランディングはないだろう」(RPテックの倉都康行代表)との楽観的な見方が今のところ多数派だ。
だが、横浜国大の上川教授は「米中対立は経済だけでなく覇権を巡る対立。10年、20年と継続する可能性がある」と述べるとともに「中国のドル建て債務が膨らんでいる」と指摘。今後の情勢次第では、世界の金融システムに負担をかけるリスクにも言及した。
「令和」の時代は、平成の31年間と比べ、グローバルな情勢変化の影響を受ける可能性が一段と高まりそうだ。
*本文11段落目の脱字を補いました。

ポリシー取材チーム 編集:田巻一彦、石田仁志

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