コラム:カリスマ経営者の「ゴーン化」防ぐ方法

コラム:カリスマ経営者の「ゴーン化」を防ぐ方法
11月28日、1970年代のベストセラー「タイプA 性格と心臓病」という本は、心臓疾患は「攻撃的で、より短時間で多くのことを成し遂げようと常にもがいている」タイプの人に起こりやすいと主張した。2016年10月、東京で記者会見に出席するカルロス・ゴーン日産会長(当時)(2018年 ロイター/Issei Kato)
Edward Hadas
[ロンドン 28日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 1970年代のベストセラー「タイプA 性格と心臓病」という本は、心臓疾患は「攻撃的で、より短時間で多くのことを成し遂げようと常にもがいている」タイプの人に起こりやすいと主張した。
その後、心臓疾患との関連性については疑問が呈されるようになっているが、「タイプA 性格と魂」というタイトルだったならば、多くの経営者に当てはまるのではないか。多国籍企業の最高責任者だったカルロス・ゴーン容疑者は、その最たる例だ。
現在は日本の拘置所で勾留されている64歳のゴーン元日産自動車会長は、究極の「タイプA」行動パターンだ。
仏自動車大手ルノー、そして日産自動車<7201.T> という、経営危機に瀕した2つの巨大企業のトップとして、夜もよく眠らず、それぞれの企業や産業界のタブーをエネルギッシュに打ち破り、経営を立て直した。実業界を舞台にしたアクション映画のヒーローにでもふさわしい「コストキラー」というあだ名まで手中にした。
だがゴーン容疑者は、大胆すぎたようだ。
年20億円程度だった日産からの報酬を、過少申告した容疑が持たれている。日本メディアによると、レバノンやブラジルにおける自宅用不動産の購入に会社資金を流用したなど不適切な行為もあったという。
勾留中のゴーン容疑者は、自らの疑惑について公の場で発言していない。だが、仮にルールを何も破っていなかったとしても、今回の事件は、大きな成功を収め、世界的な名声を得て巨額の富を手にした経営者が、大半の人の目には異様に映る高額報酬よりも、さらに多い金額を自分は受け取って当然だと考えていたことを示した。
輝かしい経歴に、惨めな終止符が打たれたように見える。運命の突然の暗転は、ゴーン容疑者を悲劇のヒーローにしてしまうかもしれない。偉大な人物だが、その偉大さは、重大な人格の欠陥と切っても切り離せない。
成功を収めた経営者が、偉大さと大きな弱点を併せ持っていることは珍しくない。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ元最高経営責任者(CEO)からハリウッドの大物プロデューサーだったハーベイ・ワインスタイン氏まで、それぞれの業界で最もダイナミックで大きな成功を収めた経営者のキャリアには、過剰報酬や性的威圧、無謀なリスクテークなどの汚点が付いて回っている。
この悲劇的な呪いは、職業上の強みと密接な関係にある。不安定な自信と物事を達成させる飽くなき欲望が、凝り固まった企業の通例を打破し、企業文化の再構築を成し遂げる原動力となる。
だがそれは時に、聖書で言うところの「肉の欲、目の欲、生活のおごり」、すなわち過度のセックスや金、権力への欲望を満たすための不適切な努力にもつながる。
言い換えれば、当初は会社組織で成功をもたらす「タイプA」の突出した部分は、昔ながらの個人的な「罪」へと簡単に脱線する。これは、会社組織だけの問題ではない。何千年もの間、権力は支配者を腐敗させてきた。しかし、神とほぼ同等とみられていた皇帝や王は、下々と違う行動をしても許されたため、罰を受けずに済むことが多かった。
企業のトップは、「長」と「執行役」の不安定なハイブリッドだ。王族のような報酬を受け取り、敬われるが、他の従業員と同じルールに従い、自制することも求められる。「タイプA」の性格は、「長」としての職務の助けにはなるが、善行とは相いれない部分がある。
企業には、ゴーン容疑者のようなスキャンダルを防ぐための防波堤が4つある。それぞれが強力に保たれなくてはならない。
まず第1に、企業内の手続きだ。すべての社員と同様に、CEOにもその決定を社内の委員会に諮り、監査証跡を残して職務規定に従うことが求められる。こうした仕組みが完全に機能することはまずないが、それがなければ、倫理面で「心停止」に見舞われる「タイプA」経営者はずっと多くなるに違いない。
それでも、例えば定期的な個人監査や、内部告発者が直接取締役会に通報できる仕組み作りなど、より手厚い官僚的なチェックを導入することが効果的だろう。
次に、取締役会だ。強いボスが、弱気な「タイプB」ばかりを取締役に起用し、やりたい放題やることは、よくある話だ。強く慎重なタイプの人間が規律に目を光らせていない限り、自制心のないボスが不適切な行動に出る可能性は高まる。CEOを監督するための、真に独立した役員で構成される特別委員会設置が有効かもしれない。
3番目の防波堤は、トップ自身の良心だ。成功を収めた「タイプA」の人物は、非常に説得力がある場合が多い。高額報酬でも自身の特別な貢献には見合わない、と自分自身を納得させることができる。
有益な自戒を呼び覚ますのは難しいが、例えば瞑想などの精神的修行を義務付けることが役立つかもしれない。または、過去の絶対君主のように、厳しい真実を告げる許可を与えられた「お抱え道化師」が必要なのかもしれない。
最後に、懲罰だ。恐れが、言うことを聞かない心を抑えてくれるかもしれない。1人や2人の経営者が投獄や財産喪失などの不名誉に陥ったとしても、多くの自己中心的な人間はへこまない。自分達は普通と違う基準で判断されるべきだとする彼らの自信は、驚くほど強固だ。とはいえ、CEOの報酬が増加するにつれ、罰を受けるCEOは減少した。これにより、倫理的な誤りがより起きやすくなっている。
これら4つの防波堤に共通するのは「不信」だ。部下や取締役、株主や検察が、「この経営トップは職務で不可能なこと成し遂げ、奇跡を起こした」などと考えなければ、悪行に対する耐性は下がる。そうなれば、未来のコストキラーや起業家も、魂を滅ぼさずに済むだろう。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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