コラム:100ドル突破はあるか、原油市場が抱える「ジレンマ」

コラム:100ドル突破はあるか、原油市場が抱える「ジレンマ」
 9月24日、原油市場において十分な供給がなく、タイト化が同時に起きた場合、価格予想を見誤る人が出てくるかもしれない。仏ニースのガソリンスタンドで2012年8月撮影(2018年 ロイター/Eric Gaillard)
Clyde Russell
[シンガポール 24日 ロイター] - 原油市場において十分な供給がなく、タイト化が同時に起きた場合、価格予想を見誤る人が出てくるかもしれない。
石油輸出国機構(OPEC)加盟国の中で最大の産油国であるサウジアラビアや、主要非加盟産油国であるロシアからのメッセージは、増産は必要ない、というものだった。
だが、今週シンガポールで開催されている年1回の会合に集まっているトレーダーや製油業者からは、市場は供給不足となる見通しであり、原油価格は一段と上昇する可能性があるとの声が上がっている。
確かに最近、北海ブレント原油先物のような指標の期近物は上昇しており、市場がタイト化しているとの見方を裏付けているように見える。
アジア市場で24日、ブレント先物は2014年11月以来の高値(81.48ドル)をつけた。
しかし原油価格の上昇は、サウジやその同盟諸国にとって問題ではないようだ。サウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は、アルジェで開催したOPECと主要非加盟産油国による会合後、必要であれば増産できるものの、増産計画はないと語った。
「市場の供給は十分だ。必要な原油を入手できない状況にある製油業者を私は知らない」とファリハ氏は記者団に語った。
製油業者は原油を手に入れることができるかもしれないが、価格上昇によりコスト増に直面することになる。通常のサプライチェーンが受ける混乱増大にも対処しなくてはならない。
イランへの制裁再開という米国の決断により、すでに製油業者は重質高硫黄原油の仕入先を探すことを余儀なくされている。
状況は、トランプ米政権がイランからの全輸出品に制裁を科す11月以降の数カ月で、さらに悪化する可能性がある。
イランが輸出をいきなりゼロにする可能性は低い一方で、日量約50万バレルのイラン産原油が失われるという複数アナリストの当初見通しは、今となってはかなり楽観的すぎるように思える。
イランの輸出は日量100万バレル以上、あるいはもし中国を除く主要顧客が他国産の原油に切り替えるとすれば、最大200万バレル減少する可能性すらある。
こうした状況に、経済・政治問題悪化を受けたベネズエラ産原油の喪失や、リビアで続く内戦による混乱が拍車をかけており、市場は突如としてそれほど十分に供給されているようには見えない。
さらに事態を複雑化する要因として、米中の貿易摩擦が挙げられる。中国の製油業者が米国からの原油購入を減らし、相当な貿易フローが妨げられる可能性がある。
世界の製油業者が政治的な障害に対処すべく、供給をうまく調整することは可能だろうが、これは大きな代償を払うことになりかねない。
<1バレル=100ドルも>
そうした代償を数値化するのは常に困難ではあるが、資源商社トラフィグラで原油取引の共同責任者を務めるベン・ラッコック氏は、S&Pグローバル・プラッツ開催のアジア太平洋石油会議で、原油価格がクリスマスまでに1バレル=90ドル、新年までに同100ドルになることもあり得るとの見方を示した。
原油価格は現在、期近物が期先物よりも価格が高い状態の「バックワーデーション」の状態にある。
バックワーデーションは通常、市場がタイト化しているサインであり、トレーダーや消費者は近い将来、供給を確保するためにより多くを支払らなければならないことを意味する。
だが、もし原油価格が実際に、米国の対イラン制裁再開を受けて向こう数カ月、急上昇するなら、現行価格で期先物を購入するというのは理にかなっているかもしれない。
オマーン先物やドバイ・マーカンタイル取引所(DME)、ドバイ・スワップといったイラン産原油の取引価格を見てみると、いくつか興味深いトレンドが見えてくる。
オマーン先物曲線のバックワーデーションは過去1カ月、スティープ化しており、期近物は現在、半年先の受け渡しの価格に対し2.95ドルのプレミアムが上乗せされている。これは1年前の1.88ドルから増加している。
一方、オマーン先物取引と比べて、ドバイ現物市場のフォワード曲線に見られるバックワーデーションはそれほどスティープ化していない。
現在、11月物のドバイ・スワップは1バレル=75.95ドルで取引されている。4月物に対し2.07ドルのプレミアムとなっている。
製油業者のような現物取引を行う消費者は、価格上昇を見込んだ曲線に沿って、供給を確保しようとする一方で、期近物の価格は市場のタイト化に関する報道を利用しようとする投資家の流入によって釣り上がることが、今後予想されるだろう。
だが、米国の対イラン制裁が完全履行されたら、市場は十分に供給されていると主張するサウジが正しいのか、あるいは高騰する価格の中でトレーダーが勝者を決めるのか、今よりは明らかになっているだろう。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

Opinions expressed are those of the author. They do not reflect the views of Reuters News, which, under the Trust Principles, is committed to integrity, independence, and freedom from bias.